子どもを持つと幸福度が下がる?誤解されがちな「親ペナルティ」
親ペナルティとは?
ペナルティ(penalty)は「罰」と訳されることが多いですが、他に「負担」や「不利益」という意味もあります。
すなわち、親ペナルティとは親になったことで生じる経済的負担や社会的不利益を指す社会学的用語です。
親になると、育児費用や教育費など経済的負担が増し、これまで余暇に使っていたお金や時間も自由に使えなくなります。親としての責任も重大で、体力や気力も当然必要になってきます。
子育て中の皆さんの多くは、子育ては大変だけれど、それを上回るほどの幸福感を味わっている方が大半なのではないでしょうか?
そして、子育てがマイナスイメージを持つペナルティと称される通説に、何らかの違和感や、反発を感じる人も少なくないと思います。
確かに、子どもがいない場合と比べると、子どもがいる人のほうが幸福度が高いというのが一般的です。
しかし、先進22カ国で、子どもが生まれた前後で幸福度がどう変わるかという調査をしたところ、多くの国で「親になると幸福度が下がる」という調査結果が出ました。日本と海外での研究を詳しく見てみましょう。
子どもの有無と幸福度に関する日本の研究
1.女性における幸福度の世代間格差
「女性における幸福度の世代間格差」(経済のプリズム No144 2015.11)という論文では、女性の世代別の幸福度の違いや、それが起こる背景について調査し、以下の結果を公表しています。
- 子どもがいる女性は、新しい世代ほど幸福を感じにくい
- 世帯収入が少なく、仕事をしている子持ち女性は、特に幸福を感じにくい
- 育児と家事の時間は、男性よりも女性が圧倒的に長い
- 就業している場合においても、女性の育児と家事の負担は、男性と比べて圧倒的に重い
- 子どもがいる女性の場合は専業主婦である方が主観的幸福度を高くする
2.内閣府経済社会総合研究所
内閣府経済社会総合研究所が平成29年1月に発表した「日本の子供をもつ親の幸福度」調査報告です。
- 子どもの出産・誕生が主観的幸福度に与える影響を男女別に見ると、男女とも、子どもが誕生した人はこの二時点間で、上昇していた。
- 概ね配偶者のいる人、子どものいる人の幸福度は、そうでない人より高いことを確認できた。
子どもの有無と幸福度に関する海外での研究
英国オープン大学が5000人を対象に実施した調査結果です。
- 子どものいない夫婦の方が、子どものいる夫婦に比べて、夫婦関係に対する満足度が高く、関係を保つことに努めている
- 子どものいる女性は、子どものいない女性を含めたどのグループよりも、はるかに幸福度が高い
- 収入や教育、健康状態といった要因を除けば、子どもがいるかいないかで人生の満足度にほとんど差はない
- 子どもをもつ夫婦の方が大きな浮き沈みを経験しがちである
人生の幸福度って何だろう?
読者の皆さんは、上記の研究結果について、どのような感想を持ちましたか?
人生の幸福度はとても主観的なもので、そもそも子どもがある/ないで幸福度を測るなど馬鹿げていると思ったかもしれません。
カウンセリングなどで使用される「WHO SUBI」が興味深い結果を示しています。
Nagpal & Sell(1992)によって開発された SUBIとは、心の健康自己評価質問紙(Subjective Well-Being Inventory:SUBI)のことです。
SUBIでは、「心の健康度」と「心の疲労度」を11個の項目から評価をしています。
- 人生に対する前向きの気持ち
- 達成感
- 自信
- 至福感
- 近親者の支え
- 社会的な支え
- 家族との関係
- 精神的なコントロール感
- 身体的不健康感
- 社会的なつながりの不足
- 人生に対する失望感
心の健康状態はもちろん、人間関係や身体の健康感など、精神生活を総合的に評価できるようになっています。
以下の調査結果をみてみましょう。
- 主観的幸福感は、子どもの有無で差がない
- 世帯収入は、子どもの有無で差がない
- 夫婦の共行動(食事・買い物・旅行・趣味・映画鑑賞)は、子どもなしの方が高い
- 社会的活動(ボランティア活動や地域集団との関わり)は、子どもありの方が高い
- 次世代育成(他者の乳児~青年との関わり)は、子どもありの方が高い
つまり、WHO SUBIの結果からは、45 ~60 歳の有配偶者においては、子どもの有無および性別による主観的幸福感の違いはみられませんでした。
子どもを持つ者のほうが幸福感が高い、子どもを持たない者のほうが幸福感が高いというどちらの傾向もWHO SUBIの結果は示しませんでした。
すなわち、主観的幸福度の要因を心の健康度とし、データとなる対象者を的確にしぼった結果、「子どもの有無で主観的な幸福度は変わらない」という結論になりました。
さいごに
この記事では通説、親ペナルティをめぐって、いろいろな研究結果をご紹介し、主観的な幸福度は子どもの有無で変わらないことをお伝えしました。
家族の形は様々です。結婚しない、子どもを持たないなど、選択は自由であって、人生設計を熟慮した結果だと思います。子どもが欲しいと思っても持てない人も多くいます。個人の決断は尊重されるべきです。
子どもがいるとか、いないとかは関係なく、良好な人間関係があれば幸福度は高まることは明らかです。そして私たちを取り巻く社会とのかかわりや支援体制も大切になってきます。
コロナ禍で私たちは人生で何を大切に生きていくのかを、誰と深くかかわっていくのかを改めて考えさせられました。人間は一人では生きていけないことも知りました。
確かに子育てがもたらすものは喜びや楽しみだけではありません。怒り・悲しみ・心配・落ち込み・自信喪失を経験する可能性が高くなります。
NHKのすくすく子育てに、最近以下のようなつぶやきがありました。
1歳9か月のうちの子(男)は、食が細い、まだ友達を叩いてしまうことがある、ほかのお母さんからお家での教育が問題と言われました。精一杯頑張ってるつもりですが、イヤイヤ期もあり正直大変で心が折れそうです。
子どもが幼稚園からフリーペーパーをもらってきた。働くママというコーナーで二人の方が紹介されていた。フルタイムすごいなって思ってたら、保育園お迎え祖母祖父、その後夕食も母親の実家で、終わってから帰宅とあった。遠距離で祖父母の援助が無理な自分にはできないなと思った。やはり近くに祖父母がいないと働くのは厳しいのかな。もっと祖父母の援助なく頑張っている人のタイムスケジュールを知りたかった。
子育ての負の部分を少しでも軽減するためには、周りの支援体制の大切さを改めて認識させられる投稿です。
さいごに、子どもを持つ女性の場合は社会的活動が、持たない女性の場合は次世代育成のための関わりが自己の存在価値を高める活動となり、幸福感に影響を与えることを示唆する研究結果が出ていることをお伝えして、この記事を閉じることにします。
参考:「子どもの有無と主観的幸福感 ―中年期における規定因を中心として―
福島 朋子(岩手県立大学)・ 沼山 博(山形県立米沢栄養大学)
心理学研究 2015 年 第 86 巻 第 5 号 pp. 474–480