外国人児童の日本語教育の現状と問題点！

ライター　村田美子

2023/05/23 04:05

今、全国の公立学校で外国人児童が増えている影響で、日本語が解からず授業についていけない子どもが増えています。その数、1万人以上といいます。2019年4月の入管法改正で、今後、日本語を話せない児童生徒数はさらに増えることは確実で、国レベルでの対策が急務です。この記事では、日本語指導が必要な外国人児童生徒に対する支援についてお伝えします。

日本語指導の現状
外国人児童への日本語教育の問題点と改善案
横浜市の日本語教育の取り組みに注目！
さいごに

日本語指導の現状

日本語指導が必要な子どもたちは色々なバックグラウンドを抱えています。外国籍の子どもいれば、日本国籍者であっても、国際結婚の家庭の子どもや、海外から帰国した子どもなどです。

文部科学省は1991年度から2年に一度「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」を行っています。

文部科学省が2019年に公開した「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査（2018年度）」によると、全国の公立学校に在籍する外国人児童・生徒のうち、日本語指導が必要な児童生徒数は5万759人で、その数は10年間で1.5倍と急増しています。（前回調査より 6,812 人増加）（15.5%増）この数には、外国籍の子ども、保護者の結婚などで日本国籍を取得し、移住した子どもも含まれます。

そのうち、外国籍の児童生徒数は 40,485 人で前回調査より 6,150 人増加（17.9%増）しています。

日本語指導が必要な児童生徒、5万759人のうち、3万3547人は日本語指導のため特別に配置された加配教員やボランティアらから指導を受けていましたが、24％に当たる1万400人は誰にも指導されていませんでした。この事実を皆さんはどう受け止めますか？（加配教員とは公立学校の教員定数に上乗せして文部科学省が配置する非常勤の教員のこと）

指導を受けられていない児童生徒は、愛知県1343人、東京都1129人、神奈川県1039人で、割合順は、長崎県61％、鹿児島県43％、三重県39％など、33都道府県で無支援の状態が2割を超えました。

加配教員は全国にわずか2224人で、8396校の30％に当たる2491校には日本語の先生がいません。

文科省は日本語指導が必要な児童生徒18人当たり担当教員1人を増員するとしていますが、1校当たりの外国籍児らの在籍数は「5人未満」が7割以上で、対策が追いついていないのが現状です。

参考：文部科学省「公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数（外国籍・日本国籍）の推移」

授業が解からない！日本語が解からない！

子どもは1～2年で生活言語を習得するため、友人とも仲良く話をしている状況に担任や親はつい安心してしまいます。しかし、実は日本語の授業には大変わかりにくい表現が多く使われ、授業がほとんど理解できない外国人児童が多いことを忘れてはなりません。

第二言語習得理論研究の重鎮、Cummins(1981)らは、学習場面で使用する抽象度の高い学習言語を習得するには、５～７年の年月が必要であることを明らかにしています。

外国人児童への日本語教育の問題点と改善案

外国人児童への日本語教育や支援は、国としてではなく、地方自治体ごとの対応に任せられているのが実態です。

文科省は日本語指導を要する児童に対応した教員数の配置や、指導者の育成研修、日本語の初期指導から教科指導につながる段階のカリキュラム開発といった対策を推進しようとしていますが…。

現に、加配教員の数が圧倒的に不足しています。加配教員数は、該当する児童生徒の数によって決まり、児童生徒一人ひとりの日本語能力や学力のレベルは考慮されていません。

前述したように、外国籍児らの在籍数は1校当たり5人未満が7割であり、加配教員は全国で2224人過ぎません。加配教員1人当たりの必要児童生徒数の変更が急務です。

児童生徒によって母国での学習状況が大きく異なり、発達の段階も異なります。一概に、在籍数だけで加配を決める現行のシステムでは、現場のニーズにとうてい追いついていません。

母語による初期適応学習支援、保護者に対して入学時の説明会や、個人面談などの場に通訳ボランティアの派遣も必要です。

後述する横浜市の取り組みのように、国際交流ラウンジを活用することも一案です。取り組み状況はウェブサイト上で閲覧できますので、興味がある方はご覧ください。

横浜市の日本語教育の取り組みに注目！

横浜市では、市内在住の外国人のための生活情報提供や、相談を多言語で実施したり、日本語教室の開催、通訳ボランティアの派遣、日本人との交流活動などを行うため、国際交流ラウンジを設置しています。

また、現在、市立小・中・義務教育学校488カ所のうち、142校に「国際教室」を設けています。

1校あたり5人いれば国際教室が設置され、日本語指導の教員を加配したり、母語ボランティアの派遣など、さまざまな取り組みをおこなっています。

日本語指導が必要な児童生徒のうち、日本の学校に在籍している期間が２年未満の子ども対しては、母語のできるボランティアが学校生活への適応や学習を支援してくれます。

保護者に対しては、母語のできるボランティアを学校に派遣し、転・編・入学時の説明、個人面談、家庭訪問、入学説明会等の各種説明会などで、学校と保護者間の通訳をしてくれます。

就学前教育、「さくら教室」のご紹介

次に、横浜市教育委員会が2017年から運営している就学前教育、「さくら教室」をご紹介しましょう。

「さくら教室」では、小学校入学直前の子どもが日本の学校に速やかに適応できるよう、学校生活や学習を体験します。また、保護者の不安を軽減するため、入学時に必要な書類記入や、日本の学校生活に必要なこと、保護者の役割等を母語で伝えます。

「学校ガイダンス」では、保護者や児童に日本の学校のルールや慣習について多言語で説明します。具体的には、通学で準備する物、学校生活や学校行事、「入学式」での服装マナーなどを説明してくれます。

「プレクラス　ひまわり」では市内の学校に入学直後の児童が、日本の学校に速やかに適応できるよう、４週間の集中的な日本語指導と学校生活の体験を行います。出席扱いで週3日通います。

さらに、横浜市では、日本の学校に通う保護者に向けて「ようこそ横浜の学校へ」という資料を配布しています。

学校に入る手続きから、遠足や運動会などの行事についての説明、何かあった時に相談できる機関の連絡先、簡単な学校用語や、よく使う日常会話など、学校生活で必要となる事柄がくわしく載っています。

学校で必要な物については、写真入りのページで紹介されているので、何を用意すればいいのか、ひと目でわかるようになっていて、やさしい日本語、英語、中国語、ベトナム語、タガログ語、韓国・朝鮮語、ポルトガル語、スペイン語から選べます。

参考：「ようこそ横浜の学校へ」

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/08/23/1420501_005.pdf

さいごに

2019年4月の入管法改正で、外国人労働者が日本社会で仕事をする機会が増え、家族の帯同も許されました。今後、日本語を話せない児童生徒数はさらに増えることは確実です。

地域によっては、周りに相談できる知り合いもなく、日本の学校への入学を不安に感じている保護者や児童も多いようです。

これまでは、教育現場では初期の日本語指導が最重視されてきましたが、友達との日本語の会話ができても、授業や教科書の内容までしっかり理解できているとは限らないという科学的エビデンスを記事内でお伝えしました。

E-ラーニングを活用したり、NPO・NGOなどと連携することも重要になってきます。ご紹介した横浜市のような取り組みが全国的に広がっていくよう願っています。

この記事の著者

【ライター・コラムニスト】神戸市外国語大学を卒業後、京都府立高校で英語教師として勤務。その後、40歳で米国ジュニアタ大学に留学し、平和学を専攻。続いてオハイオ州立大学　教育学部　修士取得、博士課程、単位取得。帰国後、関西外国語大学にて教授。時事、カルチャー、政治経済、幼児教育～社会人教育まで多岐にわたる分野で記事執筆。20年間インドのアウトカーストの子どもたちの教育支援を行っている。 2018年、インド支援の一環として出版社、Murata Publisherを立ち上げる。著書に東洋経済新報社より「クリティカルシンキング　基礎編」「クリティカルシンキング　実践編」「誰も知らなかったインド人の秘密」、Murata Publisherより電子本39冊出版。

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