ごほうびでやる気を出させるのはあり?なし?内発的動機を維持させる3つの鍵
幼稚園児の動機付けに関する研究
スタンフォード大学の心理学者、マーク・レッパー教授は次のような実験を行いました。はじめに子どもたちの半数だけに「絵が描けたら青リボン(メダル)をあげる」と約束して絵を描かせました。
2週間後の状況はどうなったでしょうか?
青リボンのことを聞かなかった子どもたちの中には絵を描き続ける子がたくさんいましたが、青リボンを約束された子どもたちは自由時間にお絵かきをすることが減り、絵を描くことへの興味を失ってしまいました。
青リボンをもらったことで、絵が好きだから描いているのか、それとも青リボンをもらうために絵を描いているのかが分からなくなってしまったのです。
これは「認知的不協和」と言い、報酬は、自分の内側から出る、内発的動機づけを阻害する可能性があるということを表しています。
その後の研究で、報酬による内発的動機づけの低下という現象は、恣意的に選んだ報酬を機械的に用いるという、かなり特殊な状況でなければ生じがたいという意見も出ています。
(参考)Lepper, M. R., Greene, D., & Nisbett, R. E. (1973). Undermining children's intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the "overjustification" hypothesis. Journal of Personality and Social Psychology, 28(1), 129–137. https://doi.org/10.1037/h0035519
自らが決定して行動を起こす「自己決定理論」とは?
自己決定理論とは、自分が決めた程度が大きいほど大きくなり、動機づけの質が変化するというDeci と Ryanの考えに基づいています。
この自己決定連続体によると、外発的動機づけとは他律的で報酬や強制によって行動が生じることで、それは、上記の実験のようなご褒美と、叱られるなどのことです。あめとむちですね。
内発的動機づけは、その行動が好きで、やりがいを感じ、楽しんでできる状態のことで、自律的で、報酬がなくても行動が自ら生じることをいいます。
内発的動機づけを維持させる「3つの鍵」
動機づけを高めるためには、自らが決定して行動を起こし、内発的動機づけにつなげることが重要です。
内発的動機づけを維持させるには3つの鍵があると言います。
1)自律性
子どもが自分で選び、自分の意思でやっている行動。管理されていたり、強制されていると子どもが感じると、自立性は育ちません。
2)有能感
子どもの能力を少しだけ超えるようなこと、難しいけれど頑張ったらできそうなことに挑戦して、できたときに味わえます。
3)関係性
子どもが先生を好きで、先生に自分が尊重されていると感じた時や、友だちと一緒にする行為が楽しいという時などに育ちます。
子どもの習い事やお勉強などに伴走するときに、上の3つの鍵を注意しながら環境を作ってあげると「内発的動機」を高められるかもしれませんね。
ご褒美の使いどころは別にある
では、外発的動機づけは全くダメなのでしょうか?実際は外発的動機づけが必要な時もあるのです。
反復練習など飽きてしまうような練習にモチベーションを保つには、外発的動機付けも大切になります。
お金ではなく、言葉などで褒めたり励ましたりすることで、外発的動機づけを自分のうちに取り込むようにうまく仕向けられた子どもは、モチベーションを徐々に強化していけるといいます。このように、周囲がうまく動機づけをしてあげることが重要ですね。
英検 Jr. にみる様々な工夫
英検Jr.は日本英語検定協会が主催しています。受験状況は小学生が中心で、一番多く受験しているのは8歳(小学2年生)のようです。
2009年6月、英検 Jr.をさらに身近なものに感じ、『子どもたちに英語の楽しさをもっと知ってほしい』という願いをこめてスタートしたのが「英検 Jr.オンライン版」です。
英検 Jr.には、子どもの動機付けに関連する工夫が施されています。ゲームのようなテストや、おもしろい教材、テスト直後の結果発表、かわいらしいデザインのレポートカード、子どもが達成感を味わえる成績証明書などです。
成績証明書は賞状のようで、子ども自身がグレードのシールを貼ることができ、合否はありません。
英検 Jr. オンライン版は慶應義塾中等部の家庭学習としても活用されているのをご存じですか?
自宅のパソコンから受験できるので、子どもにとって初めてのテストでも落ち着いて受けることができます。
子どもは、楽しくないと長続きしませんよね。その点、英検 Jr.の問題はオールカラーでイラストが中心となっており、ゲーム感覚でチャレンジできます。
試験時間も短めなので、途中で飽きずに最後まで続けやすくなっています。
リスニングが中心で、音への感受性が高い幼児期にふさわしいと思います。また、英検 Jr.オンライン版では、前回はできなかったアイテムが、次に学習するときには優先的に出てくるなど、AIの特長を十分に生かした学習コンテンツになっています。身についたことを実感するためにテストをやりたくなってしまうという動機付けがなされています。
小学校の外国語活動とリンクしている点も評価できます。2020年度から小学校中学年で「外国語活動」が導入され、小学校高学年からは「外国語科」として成績対象になりましたね。
英検 Jr.のBRONZEのテスト内容は、小学校の外国語活動に対応しているので、学校での学習内容の予習にもなります。
その他、個人成績表には、成績だけでなく学習アドバイスも書かれて、子どもの動機を促しています。
興味があるorioriユーザーは、以下をご覧ください。
さいごに
1970年代の心理学では、行動主義、すなわち人は褒美と罰に反応するという考えが主流でした。パブロフの実験が有名ですね。つまり、「褒美を与えれば行動する」という考えです。
これに対して、エドワード・デシとリチャード・ライアンは、外的な報酬ではなく、「行動することによって得られる、内面的な楽しみや意義を動機として、人は決断を下す」と考え、これを『内発的動機づけ』と名付けました。
私たちが日々の教育の方針にするヒントとして、物で釣るよりも、褒めたりする言語的、社会的な報酬で子どものやる気を促進する方が安全です。
子どものころから、「お金をもらうために勉強する」「ご褒美がもらいたいから練習をする」などの生き方を身に付けさせるのはよろしくありません。
子どもたちは面白ければ自然に何でも取り組みます。一番重要なのは、できるようになったこと自体を子どもも親も喜べるようにしたいものです。
そのためには、子どものちょっとしたがんばりを褒めてあげることや、ほんの少しの成長を一緒に喜んであげましょう。
記事では英検JR.をご紹介しました。子どもの英語に対する動機付けを上手に促し、さまざまな工夫がなされています。是非、参考にしてください。