
家庭で簡単にできる「空間認識能力」の鍛え方
空間認識能力とは?

空間認識能力とは、物体のある場所・大きさ・形・速さ・向き・物体同士の位置関係などを素早く正確に認知する能力のことです。
空間認識能力が高い子どもは、自分や物が置かれている状況を瞬時に3次元(幅・奥行き・高さ)で認識できるので、スポーツや算数・理科などの教科で良い成績を上げやすい傾向があります。
たとえば、バスケットボールでゴールを決めたり、地図を見て地形を把握できたり、立体の展開図を見て完成した形が分かったりします。
他にも、絵本を読んで情景をイメージしたり、補助輪なしに自転車に乗ったり、物を見て絵を描いたり、時間の長さをイメージしたり、手順を考えたりするときにも空間認識能力を使っています。
すなわち、空間認識能力が高いと、視覚と聴覚、右脳がうまく連携し、頭の中で目の前にない物でも想像することができ、視覚的なイメージを作ることができるのですね。
空間認識能力が低いとどうなるか?

もし、空間認識能力が低いと、以下のように、いろいろ困ったことが起きます。
よく転んでしまう、ぶつかってしまう
物を立体的に把握することができないので、道路の段差がどのくらいあるのかや、段差につまずかないためにはどの程度、足を持ち上げればいいのかが分かりません。
同様の理由で、道端にあるものにぶつかったり、3輪車などで遊んでいるときに、他の子供とすれ違いが上手にできないなどというケースも考えられます。
交通事故の危険性が高まる
高次脳機能障害のリハビリテーションを専門家、渡邉修教授(東京慈恵会医科大学)の論文「認知機能と自動車運転」によると、「視空間認知機能」は、運転における車間距離の維持、スピード調節、人や障害物の回避を司っていると言います。空間認識能力が高い人に、車の運転が上手であることが多いのも頷けます。
子どものうちに空間認識能力が育たないと、道路を走っている車や自転車と自分の距離がつかめずにぶつかったり、スピードを出しすぎてしまったり、歩行者やガードレールに激突したりするなど、事故に遭いやすくなります。
地図が読めない、迷子になりやすい
地図上の場所と自分が実際に立っている場所を一致させることが難しく、平面(2次元)である地図・案内図と、立体(3次元)の身の回りを結びつけて理解することが困難です。
そのため、大きなショッピングモールなどで、自分が歩いた経路がショッピングモールの中のどこに当たるのかが認識できてなく、元の場所に戻ることができず、迷子になってしまいます。
学校の教科で苦労する
図工で立体的な絵が描けなかったり、理科で天体の授業が解からないなど、学校の教科で苦労します。
体育で球技が苦手になる
空間認識能力が低い子どもは、動くボールと自分との立体的な位置関係を考えなければいけない球技に苦手意識を持ちやすくなる可能性があります。
空間認識能力の鍛え方

では、どうすれば空間認識能力をトレーニングできるのでしょうか?
空間認識能力は特別な知育教材がなくても、言葉がけや家庭であるもので簡単に鍛えられます。
空間言語を使った言葉がけ
子どもが日常的に空間を意識するように、言葉がけに気を配りましょう。
たとえば、皿を棚に戻すなど日頃の手伝いの時に、「これをあそこに戻して」ではなく、「この皿を、下から2番目の棚のコップの隣にしまって」と指示するようにします。
また、「このベーグルをトースターに入れるには、どう切ったらいいかな?」「いつもと違うふうに切ったら、どんな形になる?」など、日頃から空間認識を意識した質問をしてみましょう。
買い物時には「このエコバッグに全部入るかな?」「どの順番で入れたらバランスがいいかな?」、おもちゃを片付ける時も、「クレヨンを箱に戻してね」「大きいブロックから先に箱に入れてね」などと、言葉がけしてみましょう。このように、普段の生活の中で、空間認識能力を高める機会はたくさんあります。
言葉がけが子どもの空間認識能力を高めるという研究結果があるので、ご紹介しましょう。
Shannon M Pruden 1、 Susan C Levine、Janellen Huttenlocherの三人による ”Children's spatial thinking: does talk about the spatial world matter?(言葉がけは子どもの空間認識能力に重要?)"という論文から引用してみます。
その研究では生後14カ月~46カ月の子どもに、物体の空間的特徴と特性を記述する単語、たとえば大きな、背の高い、円、曲線、角ばっているなどを家庭内で頻繁にインプットした親子52組を長期観察しました。
その結果、子どもたちの発話の中に空間を表すアウトプットが非常に多かったこと、さらに、大きくなってからも空間的な問題解決すなわち、空間認識能力が高いことが判りました。
参考:Children’s spatial thinking: does talk about the spatial world matter? NCBI
図を描いてみる
子どもたちに保育園や幼稚園への行き方を、簡単な地図で描いてもらいましょう。
平井孝志氏の新刊、『武器としての図で考える習慣: 「抽象化思考」のレッスン』から興味深い「図を描いて考える5つのコツ」をご紹介します。
- コツ1:複雑な図形は使わない(四角と丸で十分)
- コツ2:文字は少なめ、短め
- コツ3:線を使って関係性を理解する
- コツ4:大事なところを強調する
- コツ5:周りに余白を残しながら描いていく
以上、5つのコツは大人の私たちにも大いに参考になりますね。興味がある方は、是非、本を手に取ってみてください。
両目を閉じて動いてみよう
空間認識能力は目を開けている状態よりも閉じている状態の方が活発です。目の前に置いてある物を取るなどの日常の中で何気なく行なっている作業を、両目を閉じて行なうだけで、空間認識能力が鍛えられます。また、親子で目隠し鬼ごっこなども楽しいですね。
さいごに
この記事では空間認識能力とは何か、そして空間認識能力の鍛え方についてお伝えしました。
空間認識能力とは、「目に見えている部分」と「見えない部分」を結びつけて理解する能力と言えますね。現在、大脳生理学や認知心理学、発達心理学など幅広い分野の専門家が研究課題として空間認識能力に注目しています。
空間認識能力が高い人は、二次元の地図から三次元の地形を簡単に把握できるため、日常生活でも道に迷うことが少なく、車の運転も得意な傾向にあります。
小さい頃に空間認識能力を鍛えておくと、日常生活でも道に迷うことが少なく、自分と車との距離がうまくつかめ事故に遭う可能性が低くなります。
他にも、図工・美術などのイメージ力がアップする、視野が広くなり、球技をはじめとしたスポーツが得意になるなどのメリットがあります。
空間認識力の鍛え方には、上記で紹介した以外にも、体を動かす外遊び、球技や山歩き、フィールドアスレチックやボルタリング、トランポリンなどで遊んだり、3Dゲームやブロック・積み木など組み立て式の玩具で遊んだり、身近にあるもので工作を楽しんだりすることなどもあります。
是非、記事で紹介した身近な方法で、楽しく遊びながら子どもの空間認識能力を伸ばしてくださいね。