教育虐待は幼児期にも起こりうる?教育虐待の具体例としないためのポイント
教育虐待とは?
厚生労働省によると、児童虐待は「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4種類に分類されるといわれています。「教育虐待」はこの分類のなかには入っていませんが、その内容によってこれらの分類に振り分けられるでしょう。
それでは、まずは教育虐待がどのようなものなのかご説明します。
子どもの意思を無視した過剰な教育・しつけ
教育虐待には法律上の明確な定義はありませんが、子どもの考えや気持ちを蔑ろにして、子どもが耐えきれない教育やしつけをすることをいいます。「教育」というと勉強のイメージがありますが、しつけなどの家庭教育や習い事なども含まれるようです。
もともと教育虐待という言葉は、子どもの緊急避難場所である子どもシェルターで使われていたといいます。その後、2011年に開催された「日本子ども虐待防止学会 」にて武蔵大学の教授だった武田信子 氏が「教育虐待」という言葉を使用したこと、また当時しつけや教育という建前のもとで行われる虐待へ注目が集まっていたことから、世間に広まっていったそうです。
虐待の自覚がないケースが多い
教育虐待は、保護者の子どもへの期待や心配から起こることが多く、当事者に「虐待をしている」という自覚はない場合が多いといいます。「子どもが幸せになるため」だという認識が強く、子どもを傷つけ、追い詰めているとは思ってもみないのかもしれません。
教育虐待の具体例
具体的にどのようなものが教育虐待にあたるのでしょうか?一部の例をご紹介します。
★睡眠や食事の時間を犠牲にして勉強をさせる
★きょうだいやほかの子どもと比較して子どもを責める
★「こんな簡単なこともできないの?」などと子どもの自尊心を傷つける言動をする
★親の求めるレベルを達成できないと罰を与える
★親の言う通りのことができないからと叩く
★子どものやりたいことを無視して、親の希望を押し付ける
大人の場合も、仕事や家事・子育てなどで上記のような言動を繰り返されると耐えられないもの。子どもをひとりの人間として尊重し、親の考えや価値観を押し付けないよう注意したいですね。
「教育虐待」と「教育熱心」の見分け方
日本では教育への関心が高く、子どもの将来のためにと幼児期から教育を始める家庭も少なくありません。近年では英語力やプログラミング能力、非認知能力など、さまざまな分野の教育へも注目が集まっており、何にどのくらい取り組めばいいのか悩む人も多いといいます。
また少子化が進み、家庭の子どもの数が減ったことから、子どもひとりに対するママ・パパの期待も高まっている傾向があります。そうしたことから、現代日本は教育虐待につながりやすい環境だといえるでしょう。
子どもへの教育に力を入れている家庭は多いですが、教育熱心な家庭なのか、教育虐待を行っている家庭なのかは、傍目からはわかりづらいかもしれません。しかし両者には「子どもを親とは異なるひとりの人間として認めているか否か」という違いがあるといいます。
子どもを親とは別人格の「個」として認め、その意思を尊重した上で教育することは、教育虐待には当たらないといわれています。一方、親と子どもを同一視し、親の感情や意思任せに子どもを支配して教育することは、教育虐待につながりかねないため注意しましょう。
教育虐待をしないために気を付けたいポイント
教育虐待は自覚なく行ってしまうことが多いといいますが、教育虐待をしないためにはどのようなポイントに気を付ければいいのでしょうか?
自分の教育を過信しない
子どもがひとりひとり違うように、子どもに合った教育方法もその子によってさまざまです。そのため、自分の行う教育が必ずしも正しいとは限らないということを忘れないようにしましょう。
ただ親の思い通りにならないからと子どもを叱るのではなく「本当に子どものためになるのか」「子どもの心を傷つけていないか」考えてみるといいですね。そうして試行錯誤している姿が子どもの目に頼りなく見えないか不安になるかもしれませんが、自分のことを懸命に考えてくれている姿に子どもは愛情を感じられるのではないでしょうか?
子どもの意思を尊重する
親と子どもは違う人間だということはわかっていても、無意識で自身と子どもを同一視している人も多いといいます。親子でも考え方や価値観は異なるということを忘れず、子どもの気持ちや欲求を受け入れることが大切なのかもしれません。
子どもが親の言うことに反抗すると悲しくなるかもしれませんが、それもどもの成長過程のひとつ。「自己主張ができるようになった」と前向きに受け止め、子どもの話に耳を傾けてあげてはいかがでしょうか?
手や口を出しすぎない
子どもには失敗してほしくないからと、つい手や口を出してしまうこともあるでしょう。子どもの行動が失敗につながりそうに見えても、子どもを信じて見守ってあげることが大切だといいます。
失敗を防ぐために大人が決めた道しか許さないでいると、子どもは自分で考えて行動する機会を失ってしまいかねません。たとえ子どもが選んだ方法で失敗してしまったとしても、失敗から学べることも多いため、大きな危険がなければ子どもに任せてみてくださいね。
子どもの立場になって考える
子どもへの教育を振り返るとき、自分が子どもの立場だったらどう感じるか考えてみることもおすすめです。「仕事で結果を出すまで遊ぶことができなかったら」「ちょっとした失敗で怒鳴りつけられたら」と自分に置き換えて想像してみることで、子どもの気持ちを思いやれそうですね。
子どもの様子を気に掛ける
教育虐待の影響は、子どもの心身の不調となってあらわれることがあるといいます。子どもがストレスを抱えていないか、子どもの様子に気を配ってあげましょう。「大人の顔色を必要以上に気にしている」「食欲がない」「ささいなことで癇癪を起こす」など、気になる様子があれば子どもとの接し方を改めて見直してみてもいいですね。
前向きな声掛けを心がける
子どもの教育やしつけが思うように進まないと「どうしてこんなこともできないの!」などと否定的な言葉を投げつけてしまうこともあるかもしれません。しかしそうした声掛けを繰り返すと、子どもの自己肯定感を損なってしまうこともあるといいます。
子どものできないところではなく、できていることや頑張っていることに目を向け「もう少しでできそうだね」「頑張っているね」などと前向きな声掛けを意識すると、子どものやる気を引き出せるかもしれません。
また、無理に褒めることにこだわる必要もないといいます。例えば「上手にできなくて悔しかった」などという子どもの気持ちを受け入れ、共感してあげることが大切なのだそうです。
ほかの子どもと比較しない
子育てをしていると、つい「お兄ちゃんはもっと上手にできたのに」「お友だちはきちんとできるのに」などと周囲と比べてしまうこともあるでしょう。しかし子どもの成長には個人差があるため、ほかの子どもと比較することは親にとっても子どもにとってもストレスになりかねません。
ほかの子どもとの違いではなく、子ども自身の成長に目を向けるよう意識したいものですね。
保護者がストレスを溜めこまない
「子どもを立派に育てなければいけない」というプレッシャーや、孤立した子育てによる孤独感などから、ストレスを抱え込むママ・パパも少なくありません。そうして保護者が精神的に追い込まれることで、教育虐待につながってしまうケースもあるといいます。
そのため、子育てに関する不安やストレスはひとりで抱え込まず、周囲に相談してみてはいかがでしょうか?話を聞いてもらうだけでも、心が軽くなるかもしれませんよ。また教育方法などに悩む場合は、幼稚園・保育園の先生や習い事の先生など、専門家に頼ってもいいでしょう。
周囲に相談できる相手がいない場合は、自治体の相談窓口などを利用してもいいですね。また自分の言動が虐待に当たるのではないかと感じたら、児童相談所の虐待対応ダイヤル「189」へ電話すると、24時間いつでも相談することができるといいます。
また子育てに悩む場合は、虐待以外の相談もできる児童相談所相談専用ダイヤル(0120-189-783)を利用してもいいでしょう。
子育て以外のことに目を向ける
ママやパパが子育てのことにばかり目を向けてしまうと、視野が狭くなって過度な教育へつながる可能性が懸念されます。そのため、子育て以外の趣味や仕事へ意識を向ける時間を作ることも大切でしょう。
そうした自分の時間を確保することは、育児ストレスの軽減にもつながりそうですね。
さいごに
自覚なく行ってしまうことの多い教育虐待は、どの家庭でも起こりうるものです。そのため「自分は大丈夫」と安易に考えず、自分の言動を振り返る時間を作ることをおすすめします。
そのうえで、気づかぬうちに子どもに対して教育虐待をしてしまっていたら、しっかりと子どもに謝って親子の信頼関係を修復することが大切だといいます。教育虐待を続けていると、子どもの自己肯定感を損ない、将来に悪影響を及ぼしてしまう可能性も考えられるので気を付けたいものですね。
参考サイト
- 一般社団法人日本子ども虐待防止学会(https://jaspcan.org/)
- 一般社団法人 ジェイス(https://jace-pom.org/)