
園でいじめがあったら親や子はどうする?初期対応に最適な「や・は・た」行動とは
幼児期のいじめの特徴
幼児期は子ども同士のじゃれ合いからケンカに発展することも多いですが、その中に陰湿ないじめが隠れていることもあります。
原因としては、おもちゃを取られた、貸したくない、泣くから面白い、相手が嫌いなどといった、自己主張の延長線がいじめになっているケースが少なくありません。いじめをしているという自覚もなく、相手が傷ついていることにも気づいていないことあります。
すぐに仲直りできるようなら、いじめとは言えませんが、継続的に、相手が嫌がることをしてくる場合はいじめです。
いじめって本当にあるの?
幼稚園や保育園のような場所で本当にいじめってあるの?と思われるかもしれません。そこである調査を見てみましょう。
東京都教職員研修センターが調査した「いじめ問題に関する意識調査の分析結果」(https://www.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.lg.jp/09seika/reports/files/kenkyujo/h09_ijime/h09_ijime_4.pdf)によると、幼稚園では約6割が「いじめられたことがある」と答えています。
いじめの態様では、身体的な不快感をいじめと捉えることから始まり、子どもの発達とともに言葉によるいじめが増加しています。
ただし、注意する必要があるのは、本調査内で言及されている通り、幼児は「相手の理不尽な行為をいじめと捉える傾向が見られる」ということです。
いじめられている!!!見逃せない子どもからのサイン
いじめの標的になりやすい優しい子どもや、おとなしい子どもは、いじめられたことを親や先生に言えずにいることがあります。
親や大人は、子どものSOSサインを見逃さないことが重要です。以下のようなサインがあれば、要注意です。
- 頭が痛い、おなかが痛いと頻繁に言う。
- 園に行きたがらない。
- 持ち物がなくなっている。
- 小さな傷が絶えない。
- 洋服やかばんなどに落書きされている。
- 子どもの笑顔が急に少なくなった。
- すぐに泣いたり怒ったりして、感情が高ぶっている。
- 寝つきが悪くなった。
- 朝起きてこなくなった。
- 食欲がなくなってきた。
- 髪の毛を自分で抜いている。
- 爪かみが激しくなってきた。
- 口数がめっきり減って園のことを話したがらない。
- 家で兄弟を叩いたり、乱暴になった。
- すごく甘えるか、逆に甘えなくなった。
「いじめかもしれない?」そんなときの対処方法
「誰かにいじめられているんじゃないの?」と、子どもを追求することは止めましょう。子どもは親に責められていると思い、事実を隠してしまうかもしれません。
特に普段から「負けるな!」「強い子になりなさい」などと言って育てている子どもなら言い出さない、言い出せないかもしれません。
そのような時は、お風呂に入った時や寝る前などリラックスした時に、さりげなく「今日は保育園でどんなことをして遊んだ?」と聞いてあげましょう。
勇気を出して話してくれた時は、責めることなく、受け入れてあげて、思い切り甘えさせてあげるといいですね。
そして、幼稚園・保育園に相談しましょう。いじめっ子の親に直談判は止めましょう。先に園に報告し、園を通していじめっ子の親に告げてもらう方が賢明です。
いじめと思われる事象を断片的にとらえないように
東京都教職員研修センターが調査した「いじめ問題に関する意識調査の分析結果」内に興味深い事例紹介がありました。
幼稚園で以下のようなことがあったようです。
幼稚園でA男は一人で遊んでいることが多い。仲良く遊んでいる幼児たちの集団に近付いて、仲間に入れてもらおうとしても、「ダメッ 」と言って拒絶されてしまう。教師がA男に近寄ると、「僕、遊ぶ相手がいないの」と寂しげに訴えた。
これは、次のような事例の半年後の姿だったのです。
幼稚園児のA男は、教室で皆が行儀よく並んでいる所へ来て、いきなり2 、3 人の幼児を唐突に突き飛ばしたり、また砂場で6、7人で遊んで‘いる幼児に、そこで作っていた砂団子を投げたりした。こういうことがたびたび続くうちに、子どもたちが「A男にいじめられた!」と訴えることが多くなった。
この事象から得られる教訓として、「いじめ・問題行動は、個別の事象ごとに断片化するのではなく、(集団内の)人間関係という大きな流れの中に位置付け、理解する必要があること」と本書内では言及されています。
我々も注意する必要がありますね。
子どもにいじめの初期対応、「や・は・た」を教えよう!
公益社団法人「子どもの発達科学研究所」は、いじめが起こらない状況、いじめが起こってもすぐに解決できる状況を作ることが大切であると言います。
同研究所は被害にあった子どもが最初に苦痛を感じたとき、その子や目撃者が正しい行動を取ることが、いじめの早期解決に大きな力を発揮すると考え、「や・は・た」を提案しています。
「や・は・た」とは、やめて・離れる・助けての頭文字をとって、覚えやすくしています。まず、いじめにあったり、いじめを目撃した時の正しい対応行動について大人が理解し、子どもたちに具体的に教えることが大切です。
1:加害者に「やめて」と言う
「やめて欲しい」、「そういうことをされるのは嫌だ!」と相手に伝えることによって、加害者が自らの行動を振り返ることができます。
2:その場を「はなれる」
被害者は一刻も早くその場から離れ、安全な環境に移動することが大切です。その場にいること自体が加害者を刺激し、いじめ行動をエスカレートさせたり仲間を増やしたりしてしまうことがあるからです。
3:「たすけ」を求める
信頼できる大人に「たすけ」を求めることが大切です。
まわりにいる子ども達はどうすればいい?
いじめにあう子が「や・は・た」行動をとることは大変重要ですが、被害を受けている子どものすべてが、正しい「やはた」行動をとれるとは限りません。
そのようなときは、周りにいる子どもが同じように「や・は・た」行動をとります。それは、これまでの研究で、いじめの初期対応で最も重要な役目を持つのは、まわりで見ている子ども達であることが分かっているからです。
まとめてみましょう。
周りの子どもも「や・は・た」行動をとるということは:
や:被害者の代わりに『やめて』と加害者に伝える
は:被害者と一緒にその場をはなれる
た:被害者の代わりにたすけを求めに行く
※参考:公益社団法人「子どもの発達科学研究所」(http://kodomolove.org)
小学校の高学年になれば、いじめられる子どもと、いじめる子どもの仲裁に入ることで解決に向かうことも可能になってきますが、園児の場合は先生などに助けを求めるように伝えましょう。
もし、我が子がいじめ加害者になったら
子どもがいじめ加害者になった時、親はどうすればよいのでしょうか?
まず、冷静になり、何が起きたのかを客観的に把握しましょう。どのようないじめをし、被害者はどうなったのか、そして現在はどうしているのかを具体的に園の先生に確認をする必要があります。
また、親として子どもから話を聞いてみましょう。
そして、本当にいじめ加害者であることが確認できたならば、いじめをしてしまったという行為にたいして潔く謝罪することです。
保護者が潔い態度を示すことで、子どもは深く反省し、次には絶対にしないという決意をすることができます。
親は冷静に行動を!
この記事では、子どもがいじめ受けていることを親がいち早く気付けるために、子どもからのSOSサインをご紹介しました。
いじめ防止対策推進法が施行されて、いじめ対策が進んでいます。しかし、文部科学省の報告によると、いじめの認知件数は増えるばかりです。
いじめ(bullying)の国際的な定義として、相手を傷つける意図があること、継続性ないしは反復性があること、不均衡な力関係の中で行われる心理的・物理的行為であるとされています。(参考:いじめ防止対策推進法第 2 条第 1 項)
ここでの「いじめ」「いじめかもしれないこと」には、友達同士の「遊び」や「じゃれ合い」のように、お互いが楽しんでいたり、やりあっていたりすることは入りません。その友達と仲が良く、特別に力の差 、立場の差を感じていないときも、いじめとは言えません。
自分の子どもが明らかにいじめられていると判った時、親としては相当なショックを感じます。うろたえず、冷静に行動しなければなりません。
一番大切なことは、子どもに寄り添うことです。そして、「や・は・た」行動ができるように促しましょう。
いじめてくる子どもや親へ直談判に行ったり、悪口を言ったりすることは止めましょう。子どもが園に行きたがらない時は、落ち着くまで休ませてあげるのも一案です。
記事の中で、もし自分の子どもがいじめる方に回っていた時の対処方法についてもお伝えしました。子どもが何らかのストレスを感じているのではないか、育て方に問題があるのではないかなど、親が謙虚に反省する姿勢も大切だと思います。
さいごに
最後にいじめに関する科学的研究結果を列挙しておきます。
小学4年生から中学2年生の25%が、いじめが原因で学力が低下した
8歳のときに攻撃的な男子は、大人になってから何らかの犯罪者になる確率が高く、さらに大学を終えたり就労したりすることが困難である。
いじめ被害による自己肯定感の低下によって、学力や社会的能力が下がる
いじめの被害者は当然、心理的な苦痛を受けるが、傍観者も同様であり、特にいじめの事実が起こっているときよりも、それが過ぎ去ってからになると、被害者と同じくらいの心理的苦痛を抱いている