縄跳びができないのは“感覚統合”の問題?体を動かすメカニズムと改善方法
体を動かすのに大切な”固有受容覚”とは?
私たちの脳は、7つの感覚を分類したり整理したりすることによって、その場その時に応じた感覚の調整や注意の向け方ができるようになります。
周囲の状況に見合って体を動かしたり、道具を使いこなしたり、人とコミュニケーションをとったりできるのは、感覚統合がうまくいっているからなのですね。
まず、固有受容覚についてご説明しましょう。
固有受容覚とは、自分の身体の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚で、受容器は筋肉や関節です。
固有受容覚の働きには以下のようなものがあります。
- 力を加減するはたらき
- 運動をコントロールするはたらき
- 重力に抗して姿勢を保つはたらき(抗重力姿勢)
- バランスをとるはたらき
- 情緒を安定させるはたらき (緊張している時に貧乏ゆすりをしたり、イライラしている時に奥歯を強く噛むなど)
- ボディイメージ(身体の地図を把握する)の発達を促すはたらき
固定受容覚が整うと、手の使い方がわかり字がうまく書けるようになったり、体操など他の子と同じ動きができるようになります。
傾きやスピードを感じる”前庭覚”とは?
前庭覚は、自分の身体の傾きやスピード、回転を感じる感覚です。受容器は耳の奥にある耳石器と三半規管です。
前庭覚の働きには以下のようなものがあります。
- バランスをとる
- 視界がずれないように眼球をうごかす (くるくる回転したら目が回るなど)
- 覚醒を調節するはたらき(頭を振って目を覚まそうとするなど)
- 重力に抗して姿勢を保つはたらき(抗重力姿勢)
- バランスをとるはたらき
- ボディイメージ(身体の機能を把握する)の発達を促すはたらき
前庭覚がうまく使えるようになると、姿勢の軸が整い、字のバランスがよくとれ、眼球運動が働いて、読むことが上手になります。
感覚統合につまずきがあるとどうなるの?
普段私たちは、自分の身体を動かしたり、モノを使ったりするときなど、特に意識することなく様々な情報を処理し、行動しています。これは人間の脳に入ってくるいろいろな感覚を、うまく整理したりまとめたりすることをしているからこそできることなのです。その整理・まとめを「感覚統合」と言います。
例えば、キャッチボールをしている時を例に考えてみましょう。相手からボールが投げられた時のボールの軌道や速度、グローブをはめている手の距離、グローブの重さ、風の流れなどの情報を処理します。その上で、眼でボールを追い続けること、そして体を実際に動かすこと、他の情報(騒音など)を遮断することも必要になります。それらを統合的に行うことでボールをキャッチすることが出来ます。そのような一連の動きは、感覚統合が成せることです。
感覚統合に問題があると、日常生活のさまざまな場面で以下のような困ったことが起こることがあります。
- 触られることを極端に嫌がる
- ドライヤーや泣き声など特定の音が嫌いである
- 自分で頭を叩く
- いつまでもジャンプする
- 感覚過敏・感覚鈍麻がある
- 不注意、集中ができない
- 順番が待てない
- すぐに怒る
- 気分の切り替えができない、こだわりがある
- 集団で決めたルールや時間などが守れない
- 言葉が出てこない
- 話しかけても振り向かない
- 自分が思っていることをうまく言えない
- 友達とうまく遊べない、みんなと同じ行動ができない
- じっとしていられない
- ひも結びや箸の使い方など細かな運動が苦手
- そわそわしてしまう
家庭でできる対処法
2歳前後の感覚統合の問題としては、つま先歩き、ふらふら歩く、両足ジャンプができない、
歩き方がロボットでぎこちなくなったりします。
また、両足ジャンプが出来ないのは、右足と左足を同時に動かす、という、2つのことを同時にするのが苦手だからです。
改善するためには、あえて砂浜など歩きにくいところを歩いたり、トランポリンで飛んだりすることが、一般的によく行われています。
転んで手をつけないという問題も、最近の子どもによくある感覚統合の問題で、ハイハイの期間が短かったためと考えられます。
ハイハイの重要性については、別記事「ハイハイって必要?ハイハイがもたらす5つのメリットと親ができること」をご参照ください。
3~5歳頃に三輪車に乗れない、縄跳びができない、鉄棒ができないなど、2つのことを同時に動作することが難しい時は、アスレチック遊具や、縄にしがみついて上ったりする自然の遊具でよく遊ばせましょう。だんだん右と左、手と足を上手に同時に動かせるようになります。
また、箸を上手に使えない、物をそっと静かに置けない、牛乳を注げない、みそ汁のお椀が持てないなど不器用な時は、あせらず、ゆっくり、じっくり時間をかけて練習すると、上達していきます。
感覚は脳の栄養素
この記事では固有受容覚、前庭覚という身体を無意識にコントロールするために大事な感覚についてお伝えしました。
周囲の大人はついつい「ちゃんとやりなさい!」と子どもを叱ってしまいがちですが、感覚統合に関する知識を持つことで、私たちは叱る以外の選択肢を持つことができるようになりました。
感覚は脳の栄養素と言われます。発達段階の子どもにとって、物事ができるようになるにはさまざまなステップがあり、一定の順序があります。
たとえば、テーブルで食事ができるようになるためには、筋肉の動きを感じ取る固有受容覚と、身体のバランスを調整する前庭覚が育つことによって、はじめて良い姿勢で一定時間、座ることができるようになります。
そして姿勢の発達が進んだ後で、手や指などの末端の動きが発達していきます。この発達によって、お皿を持ってお箸を使うことができたり、お椀をもってみそ汁を食べることができるようになります。
このように、子どもはいくつかのステップを一つひとつクリアしていくことで、最終的な目標である「テーブルでの食事」ができるようになるのですね。
他にも力の入れ具合がわからなくて、他の園児を思いきり叩いてケンカになってしまった、鉛筆を握っても芯をすぐ折ってしまう、など身近でも感覚統合が起因していることがいろいろあります。
感覚統合が順調に育っていない子どもに対して「ちゃんとしなさい」と言っても、子どもにとってはなぜいけないのかわからない、どうすればよいのかわからないという場合が多くあります。
また、うまくできないという不安や、また叱られるという緊張感から、ますます失敗してしまうという悪循環になってしまう場合があります。
周囲の大人が的外れな声かけをして、その子を傷つけてしまったり、ストレスを抱えたり、自信を持てなくしてしまったりしないよう、パパ・ママは子どもの行動や言動、他の子との関わり方などをよく観察しましょう。
そして、子どもができていないことだけに終始するのではなく、できていないという背景には感覚統合がうまくいっていないのではないかと考えてみることも重要ではないでしょうか。
対処法としては、ひたすら練習するのではなく、ゲームやトランポリンなどの遊具なで子どもが楽しさを感じられるような工夫をしてみましょう。