裕福な家庭ほど子どもの学力が高くなる?行動遺伝学が明らかにしたこと
日本もアメリカも今、家庭の社会階層に伴う教育格差と、子どもたちの学力の低下は大きな問題になっています。
これまでも、教育社会学や教育経済学の領域では、親の学歴や社会階層が子どもの学習環境や学力に影響し、教育格差につながっていると主張してきました。
また、一方では、個人差に及ぼす遺伝と環境の影響を明らかにする行動遺伝学は、知能や学力に対する遺伝の影響の強さを主張しています。
行動遺伝学とは?
行動遺伝学の枠組みでは、経済格差のような家庭環境の差異は、環境要因にだけでなく遺伝要因にも関わるものと考えています。
家庭環境のなかで遺伝要因に依らない純粋な環境要因を行動遺伝学では共有環境と呼び、それが個人差に及ぼす影響は、非常に小さいと主張し、学力は遺伝すると主張します。
orioriユーザーの皆さんは、教育社会学と行動遺伝学の、矛盾する主張をどう考えますか?まず、アメリカの研究発表を見てみましょう。
その前に、ポリジーン(polygene) の定義づけをしておきます。ポリジーンとは、身長や体重など、量的に計測できる形質について、発現に関与する多数の遺伝子群や、個々の遺伝子のことをいいます。
アメリカの研究発表
以下は、同じ研究結果を報告したものです。
①2018年9月発表「健康・退職研究(HRS)」から
遺伝子、教育、労働市場の成果の関係を「健康と退職の研究」から科学的に証明しました。
ニューヨーク大学のニコラス・W・パパジョージ教授とケビン・トム教授は、教育の成果を予測する特定の遺伝的変異体を発見しました。
この変異体は、ポリジェニックスコアと呼ばれ、「健康・退職研究(HRS)」における人的資本蓄積と労働市場の成果との関連を研究し、2018年9月に結果を公表しました。
結果1
このスコアによって測定された遺伝的要因が、子どもの学力に大きく影響を与え、貧しい世帯で育った人に比べて、社会経済的地位の高い世帯で育った人は、大学卒業率が高い。
結果2
数十年間の労働収益が大きく、教育を促進する遺伝的形質は技術変化にも柔軟に対応できる。
参考:Genes, Education, and Labor Market Outcomes: Evidence from the Health and Retirement Study
②ワシントンポスト2018年10月9日から
ゲノミクスの革命が経済学に忍び寄っているとして、アメリカの有力紙、ワシントンポストは、上記のトム教授とパパジョージ教授による「健康・退職研究(HRS)」の研究結果に関する以下のような記事を掲載しました。
タイトルは「才能があるより豊かに生まれる方が良い」です。記事を要約してみましょう。
新しい遺伝子に基づいた計測方法によって、低所得の家庭の子どもにも高所得の家庭の子どもにも遺伝子はほぼ平等に与えられているが、成功するかどうかは違っているとしています。
高所得の両親の最も才能の低い子どもは、低所得の両親の最も才能のある子どもよりも高い率で大学を卒業します。
この結果は2018年7月にネイチャー・ジェネティクスの12人の著者の別のチームによって出版され、社会科学に遺伝子解析をもたらした最新の結果です。
ネイチャー・ジェネティクスのチームは、1,131,881個のゲノムにわたって何百万もの個々の塩基対をスキャンし、遺伝子と学校教育が完了した年数の相関関係を明らかにしました。
調査は1905年から1964年の間に生まれた約20,000人を対象に行われ、その回答と共にDNAを提供し、エコノミストが遺伝的スコアを個人の学術的および経済的成果を調べました。
膨大な遺伝的データ研究は、遺伝研究が生物科学のように経済学を押し上げる可能性が高く、エコノミストに新たな指針を与える可能性が高いとしています。
これまでも、IQテストなどによって、裕福な家庭の子どもたちに与えられた利点と学力の関係は研究されてきました。
その研究は親の教育、職業、収入に偏っているとの批判があったり、そもそも妊娠期~乳幼児期に調査することができませんでした。
「高所得の親の元で育った子どもたちは、栄養面、活動面、知育面などで豊かな環境を子どもたちに用意することができます。遺伝的に似ている2人は、より豊かな親の方が子どもたちにより多くの投資をしているので、IQテストのスコアが著しく異なる可能性があります」と、パパジョージ教授は言います。
しかし、2人の生の遺伝的可能性を見ると、実際には非常に似ていることがわかりました。
個々の遺伝的コードのいくつかは、胎児の脳の発達と神経伝達物質の分泌を含む形質に影響を与え、それぞれが個人の業績に無限の影響を与え、人々の間の学業成績の違いの11~13パーセントを説明することができます。
1つの新しいゲノムベースの尺度を使用して、遺伝的エンダウメントが低所得者と高所得の家庭の子どもたちにほぼ均等に分配されていることを発見しました。
高所得の両親の最も才能の低い子どもは、低所得の両親の最も才能のある子どもよりも高い率で大学を卒業します。
教育成果に関する遺伝的指標がトップ25%に入った人のうち、低所得の父親から生まれた人の約24%が大学を卒業しました。一方、高所得の父親から生まれた人の63%が大学を卒業しています。
逆に、学力に関する遺伝的指標が下から25%の人をみてみると、約27%は少なくとも最も高い得点の低所得の学生と同じくらい大学を卒業する可能性が高いことがわかりました。
遺伝学の経済学への応用は初期段階にあるため、多くの限界があります。上記の研究対象は白人であることです。その理由は、世界のゲノムデータはヨーロッパ系の人々からがほとんどだからです。
上の数字は、実力主義が浸透するアメリカの一般的な概念を目指す経済データの新しいゲノムベースの研究から来ています。
「裕福な家庭に生まれた人々と、貧困に生まれた人々の間には大きな遺伝的違いがあるという物語に反する」と、ニューヨーク大学のエコノミストで、国家経済調査局が最近発表した関連ワーキングペーパーの著者であるケビン・トム教授は述べます。
家族の資源がなければ、才能のある子どもたちでさえ、上り坂の戦いに直面する必要があります。
さいごに
皆さんは上記の研究結果に対し、どのような感想を持ちましたか?
トム教授とパパジョージ教授の研究結果では、遺伝子コードの25%は環境要因に依るものとしています。
子どもたちが良い学業成績をおさめるためには、遺伝だけが直接関与するのではなく、遺伝と環境の両方が大切になることが見えてきます。
ということは、子どもが将来成功するために親ができることは、環境を整えることが重要であるということですね。
この記事が、皆さんの子育て観に役立てば幸いです。