【海外教育】タイの子育て・教育事情を徹底解説
タイの基本情報
タイ王国(Kingdom of Thailand)の人口は、約6942万人(2020)で、85%がタイ人(タイ族)、10%が華人系、残りの5%をマレー系やインド系、カンボジア系が占めています。
そして、タイ人のほとんどは仏教徒で信仰深く、僧侶が約29万人、寺院が約35,000堂もあります。
国民性も「微笑みの国」と言われることから分かるように、争いを好まずおおらかで、人当たりが良いと言われます。王室への尊敬の念が非常に強い国であることも忘れてはなりません。
タイの子育て事情
首都、バンコクの事情と農村部では大きな違いがあるため、ひとくくりに述べることはできませんが、まず、バンコクでの様子をみてみましょう。
バンコクでは一時保育や幼稚園の数も多く、0歳児から預けることができます。治安も悪くなく、子どもを大切にする風土があるので、子連れで外食するのも気を遣わずにできます。
幼児教室やスイミングなど、子どもの習い事の施設も日本と同じくらい数多くあり、病院は24時間オープンで、小児科医が必ず常駐しているので万一の時も安心して子育てできます。
また、バンコクでは教育環境の選択肢が大変多く、英語・タイ語のバイリンガル保育園・幼稚園、インターナショナルスクール、日本人学校、英語で学ぶ習い事スクールなど、どれを選択しようか、一つに絞るのが難しいほどです。かなり言語教育、特に英語が意識されているのは日本と同じです。
タイという国は子どもをとても大切にする社会なので、一般的に子どもにかける教育費の割合も高いですが、収入や家庭環境によって千差万別です。
私立・国立の有名大学付属幼稚園・小・中・高校で勉強し、欧米・韓国・中国・日本など
の大学へ留学する富裕層の子女も増加傾向にあります。
一方、山間部や農村部でも教育環境は劣悪で、教育の遅れが深刻となっています。タイ語が解らない、生活するのがやっとの親も少なくありません。そのような地域ではオンライン授業を受けるための通信手段は学校にも、家にもないのが現状です。
タイの教育制度
タイの教育制度は日本と同様、6・3・3制です。満6歳~15歳までの9年間が義務教育とされていて、2学期制をとっています。
前期:5月16日から10月10日まで
後期:11月1日から翌年3月31日まで
特徴としては、公立と学校言えば国立のことで、市立や町立の学校はありません。タイの教育はタイ政府の教育省が管轄していて、就学前教育から高校まで無償で行われます。
とはいえ、財源不足から無償とは名ばかりで、政府から子ども1人当たりに支給される助成金は、必要額の3分~5分の1程度しかなく、寄付金や親からの徴収金に頼っているのが実情です。
日本同様、コロナ禍で休校を余儀なくされた学校に対し、教育省は地域ごとに通信衛星やインターネットを活用したオンライン授業を進める方針を出しましたが、遠隔地の農村や山間地などでは、その設備すらなく、農村や少数民族の子どもたちから教育を奪ってしまいました。
タイ社会が抱える問題
次に、タイが抱えている様々な問題の中で、特に顕著な4つをご紹介します。
タイは世界一の格差社会であること
2018年、スイスの銀行が世界40カ国の収入格差などを調査した結果、タイはロシアやインドを抜いて世界一の格差社会であることが判明しました。
タイの人口の1%の富裕層(約50万人)が、タイの富の66.9%を保有しているのです。
なぜ、格差社会が続くのでしょうか? 理由は以下の3つです。
- タイは贈与税が、年間7000万円までゼロ
- タイは相続税が、ほぼゼロ
- タイは固定資産税が、ほぼゼロ
この制度によって、今、お金持ちの人は次世代もお金持ちであることが保障されているのです。
たとえば、タイ王室は世界で最も裕福な王室と言われ、430億ドル(約4兆6千億円)保有し、その額はイギリスのエリザベス女王の80倍であるとまで言われています。
タイの人口が大幅に増加し、核家族が増えている
タイ経済社会開発局によると、タイの人口は1960年に2,621万人、1970年に3,435万人、1980年に4,432万人、2007年に6,154万人、2017年に6,820万人、2020年に6,942万人と、大幅な増加傾向にあり、世帯数が増えている反面、1世帯あたりの人数が減少しています。
核家族化の理由としては、子ども達の独立志向が強くなったことや、結婚後の嫁と姑の問題などで親との別居を選択する夫婦が増加したことが挙げられます。
しかし、タイでは親を大切にする、子どもを大切にするという伝統があり、核家族化が進行していても、家族の絆は大変強いものがあります。
都会と地方の格差が大きい
この格差は今始まったことではありませんが、特にコロナ禍で浮き彫りになってきました。
ウイルスによる休校の対策として、タイ政府もオンライン教育を進めるよう努力してはいますが、タイの地方部は通信インフラの整備が遅れています。
国立カセサート大学が実施した全国調査によると、タイの就学人口の3人に2人がネットに常時アクセスできないことが分かりました。
特に、タイの山間部や農村部では貧困が蔓延し、前払いのプリペイド方式の通信が中心であるため、オンライン授業もままならないと言います。
近年は安価なスマートフォンも開発され、端末自体は行き渡っているものの、WIFIなど常時接続の使用料を支払える人は多くありません。
このため、オンライン授業を行ったところで参加できるのは、せいぜい45%程度と、国立カセサート大学は報告しています。
少子高齢化社会になっていっている
女性の社会進出に伴う晩婚化などによって、少子高齢化が進んでおり、2027年には高齢層の人口割合が23%に達すると予想されています。
少子であることが、都市部での乳幼児を対象にした早期教育や過剰な習い事の背景にあり、商業化していることは、日本同様です。
さいごに
以上、タイの子育て事情と教育環境、タイ社会の問題点を見てきました。
「教育はその国の未来を創るための投資なので、教育問題を見ると、その国をデザインしていく立場にあるエリートたちの描いている未来図がよく分かる」と、WFP(国際連合世界食糧計画) アジア太平洋地域事務所の評価官、兼光由美子氏は語っています。
タイの子ども達が置かれている状況は、少子高齢化や都市部と地方の格差、貧困など、日本とよく似ていることに驚いた読者も多いのではないでしょうか。
コロナ禍が浮き彫りにした、少数民族や農村部に住む子どもたちへの教育の保証がタイの喫緊の課題であることは明白です。
「微笑みの国、タイ」「子どもを国の宝と位置付けるタイ」が、表面的なイメージで終わることのないよう、格差解消に向けての教育がすすめられるよう、政治の安定と前進を望まずにはおれません。