インクルーシブ保育とは?メリット・デメリットもご紹介
インクルーシブ保育とは?
「インクルーシブ(inclusive)」は「包括的な」「すべてを含んだ」という意味合いの言葉で、インクルーシブ保育とは子どもの年齢や国籍・障害などに限らず、子ども一人一人に必要な支援をしながら、包括的に行う保育方法です。
インクルーシブ保育の歴史
現代の日本でもいえることかもしれませんが、以前は世界的にも障害があるかどうかで教育の場をわける考えが主流でした。そのため、障害がある子どもが受けられる教育に限りがありました。
しかし2006年12月に行われた国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」により、障害者が差別されることなく健常者と平等に教育を受けられる教育制度や生涯学習の確保が求められるようになったのです。
インクルーシブ保育の目的
インクルーシブ保育では、子どもひとりひとりに個性があることが前提とされ、そんな違いを認め合った上でともに育っていけるよう、それぞれの子どもが必要とする支援を行います。
障害の有無に限らず、さまざまな面から子どもそれぞれの特性を知り、どんなことに興味があるのか、どんなことができるのか探っていくのだといいます。障害や国籍などによる先入観なく、個々に必要となる支援を考えることが必要になるのでしょう。
またインクルーシブ保育では、子どもの年齢でクラス分けをせず、縦割り保育が行われることも多いです。
インテグレーション教育との違い
インテグレーション教育とは、子どもの障害の有無を区別したうえで、同じ場で教育を受ける機会を作る考え方です。障害のある子どもにのみ特別な支援を行い、それ以外の子どもには特別な支援は行わない点がインクルーシブ教育との大きな違いといえるでしょう。
インテグレーション教育では障害がある子どもを特別扱いする一方、インクルーシブ教育では個性のひとつとして特別扱いはしないのだそうです。そのため、インクルーシブ教育では障害があってもなくても、それぞれにあった必要な支援が行われます。
インクルーシブ保育で求められる「合理的配慮」とは?
インクルーシブ保育では、あらゆる子どもを包括的に保育するとされていますが、子どもによって発達やできること・できないことに差があるもの。そのため障害のない子どもに合わせたカリキュラムでは、障害のある子どもにとって参加すること自体難しいこともあります。
そんなとき、障害や子どもの特性などに応じて必要になるのが「合理的配慮」です。
合理的配慮の具体例
合理的配慮にはどのようなものがあるのか、イメージがわかないという人も少なくないでしょう。具体的な例をいくつかご紹介しますね。
- 言語発達に遅れがある子どもが指示を理解しやすいよう、絵カードを活用する
- 音などの感覚が過敏な子どもが落ち着ける場所を用意する
- 障害の程度に応じて、専門的な知識のある保育者を配置する
必要になる支援は、子どもによってそれぞれ異なるため、どのような支援が必要なのか保護者と保育者がともに協力して考えていくことが大切なのかもしれません。
イタリアの成功例
イタリアでは、障害を持つ子どものほとんどがインクルーシブ教育を受けているといいます。日本では障害のある子どもは特別支援学校や特別支援学級を選択することが多いですが、イタリアにはどちらも存在しないのだとか。
イタリアではインクルーシブ教育を円滑に行うため、支援教員の配置を積極的に行っているそうです。また障害のある子どもがクラスにいる場合、定員は20人とされ、日本と比べて1クラスの人数が少ない点も特徴といえるでしょう。
余裕を持った人員配置を行うことで、すべての子どもに対して必要なサポートを行いやすいのかもしれませんね。
インクルーシブ保育のメリット・デメリット
インクルーシブ保育には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
メリット
インクルーシブ保育では、人それぞれ「違い」があることが当たり前とされるため、お互いの違いを尊重する心を育むことができるのではないでしょうか?また違いをふまえた上で、さまざまな人とかかわる経験は子どもの成長につながることでしょう。
また子どもは他者との違いに気づきはしても、まだ「障害」という概念を持っていないといいます。そんな幼児期にさまざまな人と対等に接することで、差別や偏見が生まれにくくなるともいわれています。
さらに縦割り保育で異年齢の子どもと関わる中で、年上の子の真似をしたり年下の子のお世話をしたりといったコミュニケーションも積み重ねることができそうですね。
デメリット
大人でも、自分と他人の違いを理解し、受け入れるのには時間がかかるもの。子どもの場合、大人の適切なサポートがなければ、互いを理解できずにトラブルに発展してしまう可能性が考えられます。またサポートが不十分なだと周囲との差に傷つき、劣等感を抱いてしまうことも。
インクルーシブ保育を行う園によっては、人員や職員の知識・理解が不十分で「みんないっしょ」であることを強要するだけになってしまうケースもあるそうです。さらに人員が不足していると、支援がより必要な子どもにばかり手をかけ、ほかの子どもに平等にサポートが行き届かないこともあります。
インクルーシブ保育を行うためには、専門的な知識や外国語の習得などが必要になるケースもあるため、保育士の負担が大きくなってしまう点も注意が必要です。医療ケアを求める子どもがいる場合は、研修を受ける必要もあるといいます。
またインクルーシブ保育は日本ではあまり広まっていないため、何らかの問題が起こっても前例がなく、解決法を一から模索しなくてはならない可能性も考えられます。
さいごに
子どもひとりひとりの違いを尊重するインクルーシブ保育は、さまざまなメリットがある一方で多くの課題もあります。日本ではまだインクルーシブという考え方が普及していないため、インクルーシブ保育を謳っている園でも、実際は支援体制が確立されていないこともあるのだとか。
子どもにインクルーシブ保育を受けさせたい場合は、園で具体的にどのような取り組みが行われているのか確認したいものですね。