【海外教育】トルコの教育事情と制度を解説
トルコってどんな国?
トルコは西洋と東洋の懸け橋といわれ、両文明の影響を強く受けながら発展してきました。
人口は83,154,997人(2019年、トルコ国家統計庁)で、国土面積は日本の約2倍です。
民族はトルコ人がほとんどで、南東部を中心にクルド人、その他アルメニア人、ギリシャ人、ユダヤ人等が暮らしています。
公用語はトルコ語で、宗教はイスラム教(スンニ派、アレヴィー派)が大部分を占め、その他ギリシャ正教徒、アルメニア正教徒、ユダヤ教徒などです。
トルコの子育て事情
トルコでは子どもが生まれると家族のサイズが大きくなるため、子どもは「強さ」の象徴として大切にされています。育児はママだけじゃなく、パパはもちろん、家族・親族総出で協力して行います。
トルコの教育制度
初等教育学校を含め、ほぼ全ての学校が国立ですが、私立もあります。しかし、私立学校の費用は法外に高く、給食費や施設費などをふくめると、一人分の給料に匹敵するほどです。
学校制度は4・4・4・4制をとっており、義務教育期間は6歳~17歳(1年生~12年生)の12年間です。
2学期制で、1学期が9月中旬~1月中旬、2学期が1月下旬~6月中旬、その後3か月間の夏休みがあります。
教育方針はケマル・アタチュルクがトルコ共和国を建国する際にモットーとした思想・信条を基本とする民主主義的共和憲法に基づいています。
従来、トルコの教育システムは、自由を尊重し、個々の宗教・言語・民族の違いを超えて、平等な社会を尊重し、トルコの科学・芸術・宗教・言語の発展を支え、自由な個人を育成することを目的としています。
後述しますが、現大統領の方針で、昨今、その民主主義的共和憲法に基づく思想・信条が揺らいでいます。
就学前教育
3歳からの就学前教育は義務ではありませんが、通わせる家庭が増えています。
公・私立共に教育省の管轄下におかれ、保育園(0歳~5歳)と幼稚園(5歳、1年間)があり、小学校内に併設されています。
義務教育
5歳半になった子どもは、全員、学校教育を受けるのに適当であるかどうか、医師から報告書を得ます。
そして、就学開始に適当であるとされた子どもたちは、インターネット上に自動的に居住の住所に一番近い小学校の1年生として登録されます。
公立の初等・中等学校は無試験で入学でき、授業料や教科書は無料ですが、私立の小学校は抽選により入学が決定します。
2年生になると英語が、そして4年生以降は宗教文化と道徳の授業が必修科目になります。
1クラス当たりの生徒数は、公立校で通常30~50名、私立校で15~30名程度で、地方の公立学校では午前・午後の2部制をとるところもあります。
私立校では給食がありますが、公立校ではありません。しかし、午前と午後に軽食があるところが多いようです。
新型コロナの教育への影響
トルコでは3月17日から小学校、中学校、高等学校が休校になりましたが、1週間後からインターネットによる遠隔授業が行われています。
しかし、全ての子どもがPCやタブレットで遠隔授業に参加することが難しい現状から、パソコンがない生徒のために、ネット環境を整備したバスが巡回し、教育格差を埋めようとしています。
パソコンがない家庭では、子ども達がテレビでヨーロッパ放送地域EBA(European Broadcasting Area)を観ています。
EBAはコンテンツが豊富で、教育に関する膨大なオンラインブック、ゲーム、ビデオ、音楽なども収録されており、子どもたちや親に大変好評のようです。
授業のスケジュールは、小学生が朝9時から午後2時まで、中学生が朝9時から午後2時半まで、高校生が朝9時から午後5時までとなっていて、授業時間は各30分です。
対面授業では45分授業でしたが、子どもの集中力などを考慮して、30分に短縮されました。
夕方から夜にかけては日中の授業が再放送されています。学年が異なる子どもがいる家庭への配慮です。
また、毎日1時間、EBA上にあるZOOMを使って担任との授業がある場合もありますが、パソコンを保有していない家庭もあることから、参加は自由になっています。
実はトルコではEBAはコロナ禍になる前から利用されていました。目的は国民の教育レベルを高めるためでしたが、コロナ禍で遠隔授業を行う手段として大活躍することになりました。
トルコでは「教師と親の信頼関係」がある
もう一点、トルコの教育現場の特徴が、コロナ禍の授業で大変効果を上げた原因になっています。それは、教師という職が尊ばれていることと、教師と親の信頼関係です。
トルコでは大学進学時に、教育学部に進学を希望する者が多くなっていて、教員はかなり人気の高い職業で、社会的にも尊敬されています。
国家公務員として3カ月の有給休暇や終身雇用が保障されている点も理由の一つでしょう。
また、トルコでは教師と保護者の距離が近く、信頼関係が構築されています。多くの教師が親とスマートフォン用のワッツアップ(WhatsApp)というメッセンジャーアプリを通じてコミュニケーションをとっています。
内容は全員に向けた課題や、学校に持参するものや、遠隔授業でわからないことは子どもたちが親のアカウントを使ってプライベートチャットで質問し、また教師からの宿題や課題はグループチャットに送信されます。
何かあれば即時に質問し、回答を得られる環境があることが、混乱を招くことなく遠隔授業に移行するために必要な条件だということがわかりました。
さいごに
トルコでは学校が一斉休校になった1週間後にはインターネットやテレビによる家庭学習が可能になっています。
子どもと親、そして教師が日頃からネット環境に慣れ、連絡を取り合っていることがスムーズなコミュニケーションの要だったのですね。
トルコでの教育を見ていくにつれて、PCを積んだバスの手配、EBA再放送、親とのチャットなど、きめ細かな生徒中心の教育が展開されていることがわかりました。
最後に現在進行しているトルコでの教育に関する懸案事項をお伝えしましょう。
トルコの新教育カリキュラムは、エルドアン大統領のイスラム寄りの政策によりイスラム色が強くなっている点があげられます。
2017 年に公教育の内容の改訂にまで宗教が色濃く反映されるようになり、新カリキュラムによると、建国者で初代大統領として崇拝されているケマル・アタチュルクについて学ぶ時間が削減されたり、科学の教科書からは「ダーウィンの進化論」が削除されたり、「ジハード(異教徒との戦闘)の概念が新たに取り入れられ、イスラム教を学ぶ授業が増設されたりしています。
今後、トルコの教育環境の変化から目が離せませんね。