ライフスキルトレーニング(LST)とは?ブラジルで注目の教育メソッド
ブラジルの教育制度
2006年に初等教育の就学年齢が6歳に引き下げられ、幼児教育の対象年齢が0歳から5歳になりました。
幼児教育という概念がブラジルの憲法に取り入れられたのは、わずか30年前の1988年で、2009年に4歳~5歳の幼児も義務教育の対象と定められました。
2013年の憲法改正で「4歳以上の子どもに義務教育が必要であり、幼児教育は教育の基盤である」と記されています。
まず、0歳~5歳の子どもの就学前教育と小学校教育に焦点を当ててみましょう。
ブラジルの就学前教育
就学前教育は、保育園(0歳~3歳)と幼稚園(4歳~5歳)からなります。ブラジルでも公立と私立の保育施設があり、公立の保育園・幼稚園は保育料が無料です。
中流~上流の家庭の子どもは、よりよい環境で教育を受けるために、私立の保育園や幼稚園に通います。
公立の保育施設は数が少なく教師が不足しているため、日本同様、待機児童問題が課題となっています。
入園後、年間欠席日数が20日以上になると通園資格を失ってしまったり、遅刻する場合は病院などからの証明書を提出しなければ欠席扱いになるなど、なかなか厳しい面があります。
私立の保育園や幼稚園は、高額な費用を払わなければなりませんが、高校まで一貫して高レベルの教育を受けることが出来ます。
義務教育は6歳から14歳
ブラジルの義務教育の特徴は、三部制(午前・午後・夕方)であること、留年があること、ライフスキルトレーニングをとりいれていることです。
ライフスキルトレーニングとは何でしょうか?
次のパートで説明します。
ライフスキルトレーニングとは?
1994年、WHO(世界保健機関)は、「どの時代、どの文化社会においても、人間として生きていくために必要な力がある」とし、それをライフスキル(生活技能)と定義しました。
人びとが十分な情報に基づき意思決定し、問題を解決し、批判的・創造的に考え、効果的に意思疎通し、健康的な関係を築き、他人と共感し、健康的かつ生産的に自分の人生を管理できるための能力
ライフスキルには、次の10のスキルがあります。
- 意思決定(Decision making)
- 問題解決(Problem solving)
- 創造的思考(Creative thinking)
- 批判的思考(Critical thinking)
- 効果的コミュニケーション(Effective communication)
- 対人関係スキル(Interpersonal relationship skills)
- 自己認識(Self-awareness)
- 共感性(Empathy)
- 情動への対処(Coping with emotions)
- ストレス・コントロール(Coping with stress)
ライフスキルトレーニングによって、子ども達が成長する過程で出会う誘惑や危険行動に対処する力を学び、心の免疫をつけます。
ロールプレイや少人数グループによるブレインストーミングなどの方法を活用し、体験や観察を通しての参加型学習によって、学習意欲が育まれます。
昨今、ブラジルでも移住者が増え、地域内格差が広がり、治安の悪化や売春・麻薬売買などの青少年の問題行動が目立つようになり、ライフスキルトレーニングの実施に力を入れています。
ブラジルの教育基本法では2003年に保健体育が、2008年には音楽・美術が教科として追加され、2014年には人権について、2018年には平和について、2019年はいじめについて、2020年は麻薬についてが、ライフスキルトレーニングで取り扱われています。
その他、具体的な内容としては、自己認識、コミュニケーションの重要性、いじめ問題、性教育、HIVへの対応、インターネット社会についてなど幅広い領域をカバーしています。
教えるのは学校の先生ではなく、その時の課題に適した人を外部から呼んできて、みんなで話し合います。
さいごに
近年、ブラジルでは幼児教育の重要性が認識され、保育に対しての関心が非常に高まっています。
しかし、教育学部に幼児教育専門のコースはなく、教員資格を有していれば幼児教育から9年生までのどのクラスの担任にもなることができ、幼児教育の専門家が不足しています。
また、ブラジルでは小学校卒業時にドロップアウトしてしまう子どもが多いのが現状で、留年した子どもたちへのサポートが今後の課題であると感じます。
日本にもブラジルから日系の人が多く移住し、生活しています。ブラジル出身の子ども達が本国でどのような教育を受けてきたのかを知ることは、私たちにとって、とても大切だと思います。