チェンジメーカーの育て方!必要な資質・能力と2つの実践例
Education 2030 プロジェクトとは?
2015 年から 2018 年にかけて、30 を超える国から、政策立案者・研究者・校長・教師・生徒・財団・民間団体などが集まり対話を重ねてきました。
日本でも2015 年から文部科学省を始め、政府関係者・研究者・教師・高校生・大学生・企業関係者などの多くの参加者がプロジェクトに積極的に貢献し、発表・提案を行い、重要な役割を果たしています。
その結果、「2030 年に望まれる社会のビジョン」と、「そのビジョンを実現する主体として求められる生徒像とコンピテンシー(資質・能力)」とは何なのかが見えてきました。
生徒エージェンシーの定義
まず”エージェンシー”とは、社会参画を通して、自分の人生や周りの世界がより良いものになるよう影響を与える力です。
つまり”生徒エージェンシー”とは、生徒が変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力と定義づけられます。
生徒エージェンシーはアイデンティティーと所属感の発達に関連しています。エージェンシーを育むとき、生徒はモチベーション、希望、自己効力感、そして能力や知能は発達可能であるという理解を支えとして、正義感を育て、目的意識を持って行動することができ、社会に出ても活躍できるようになるのです。
子どもたちが「能動的な社会の創り手」になるには?
エージェンシーは、生徒が学習し、フィードバックを受け、自分の活動の振り返りを行うことで育成できます
生徒が自らの学習のエージェントとして、何をどのように学ぶかを決定することに積極的に関与するとき、生徒はより高い学習意欲を示し、学習の目標を立てるようになります。
「学び方」というスキルを身につけると、それを生涯にわたって使っていけ、自分のため、そして社会のために用いることができます。
そのために生徒は基礎的なスキルである認知的スキルや社会情動的スキルを身につける必要があります。
生徒が共有された目標に向かって邁進できるためには、保護者・教師・コミュニティ・そして生徒同士との双方向的な互いに支え合う関係や支援が必要です。
また、これまでの研究から、幼少期に身体的・性的・情動的な虐待やネグレクトといった逆境に直面した子どもたちは、自分の将来に向けた強い向上心を持てず、達成感やモチベーションも低い傾向が確認されています。
自分の役割を生徒がどのように理解するか、そしてその理解のために教育が果たす役割は、生徒が生み出す成果に関わる重要な課題です。
子どもが社会に関わる"8つの段階"
子どもの教育にコミュニティが関わることで、子どもは自分の将来にどのような機会があり、また市民としてどのように社会と責任を持って関われるのかを知り、コミュニティの人々は若年者たちのニーズ、抱えている問題、世界の見方について学ぶことができます。
次に示すはしごは、子どもの参画の度合いを表しています。上に行くほど実質的で有意義な参画であるとされます。
0. 沈黙
若者が貢献できると若者も大人も信じておらず、大人がすべての活動を主導し、すべての意思決定を行うのに対して若者は沈黙を保つ。
1. 操り
主張を正当化するために大人が若者を利用し、まるで若者が主導しているかのように見せる。
2. お飾り
主張を助ける、あるいは勢いづけるために大人が若者を利用する。
3. 形式主義・形だけの平等
大人は若者に選択肢を与えているように見せるが、その内容あるいは参加の仕方に若者が選択する余地は少ない、あるいは皆無である。
4. 若者に特定の役割が与えられ、伝えられるだけ
若者には特定の役割が与えられ、若者が参加する方法や理由は伝えられているが、若者はプロジェクトの主導や意思決定、プロジェクトにおける自分たちの役割に関する判断には関わらない。
5. 生徒からの意見を基に大人が導く
若者はプロジェクトの設計に関して意見を求められ、その結果について報告を受けるが、大人がプロジェクトを主導し、意思決定を行う。
6. 意思決定を大人・若者で共有しながら、大人が導く
大人が進め、主導するプロジェクトの意思決定の過程に、若者も参画する。
7. 若者が主導し、方向性を定める
若者が大人の支援を受けてプロジェクトを主導し、方向性を定める。大人は意見を求められたり、若者が意思決定しやすいように指針やアドバイスを与えたりするが、 最終的にすべての意思決定は若者が行う。
8. 若者が主導し、大人とともに意思決定を共有する
若者がプロジェクトを主導し、意思決定は若者と大人の協働で行われる。プロジェクトの進行や運営は若者と大人の対等な立場で共有される。
チェンジメーカーを育てる取り組み実践例
ここでは二つの事例を見てみましょう。
1)マインドセットの刷新を目指す「CHANGE SCHOOL JAPAN」
日本の若い人たちの多くが「自分には社会を変えることはできない」と考えている実態を憂え、その状況を変えるために動き出したのが、「CHANGE SCHOOL JAPAN」で、高校に出向いて活動を始めました。
「自分が動けば社会は良い方に変わっていく」「自分にもできることがある!」と信じられる子ども達を増やしていくことを目的にしています。
そのために必要なのは以下の「3つの体験」だと言います。
- 社会問題に心を揺さぶられる体験
- 問題は解決できることを実感する体験
- 自分でも行動できたという成功体験
この3つの体験を獲得するため、社会課題解決に取り組む企業・NPOと手を組みプログラムを開発しています。
2)社会起業家から学ぶ「アショカ」
1980年に設立したアショカは、世界有数の社会起業家を特定し、支援し、どのような手法でイノベーションを起こしているかを学ぶ世界的な組織です。
そして革新的な在り方を受け入れるよう、グローバルコミュニティを動員し、誰もがチェンジメーカーとなれる世界の構築を目指しています。
社会をより良くする変革を促すために、マインドセットを刷新するだけでなく、新たな学び方、働き方、生き方を創り出そうとする組織から構成されるネットワーク(大学、企業、市民セクター組織、メディアやなど)を構築しようとしています。
1986年に発足したユースベンチャープログラムにより、5,000近くの若者たちのチームがコミュニティに変化をもたらす取り組みを立ち上げて活動していて、アショカ・フェローの約80%が、フェローに選定されてから10年以内に、国家レベルでの政策変更の影響を及ぼしていると言います。
アショカの「チェンジメーカー・スクール」のネットワークは、エンパシー・チームワーク・リーダーシップ・問題解決・チェンジメーキングを学びの軸にして、1,100校以上の小中学校、高等学校、そして大学が参加するグローバルなコミュニティです。
日本の若者の現状は?
OECDは今後2022 年までの目標として、コンピテンシーの育成やカリキュラム改定、教授法・評価法や教員養成・教員研修などについて、引き続き国際的な議論を行っています。
世界的にみて、正義を守る市民を育てることが学校の教育目的になりつつある現在、日本の若者の現状はどうでしょうか?
2019年に日本財団がインド・インドネシア・韓国・ベトナム・中国・イギリス・アメリカ・ドイツ・日本の17歳~19歳男女1000人に行った「18歳意識調査」 -社会や国に対する意識調査によると、「自分で国や社会を変えられると思う」と答えた日本に若者は18.3%で、9カ国中最下位でした。
日本の教育をうけた若者は、政治・社会の知識は高水準で身につけますが、その知識を活かして参画をしない、諦念感がある現状をあなたはどうみますか?
背景に日本の教育システムの問題があり、いまこそ、社会を変えていく可能性があることを若者が実感できるような教育が求められます。
地球温暖化による自然災害や、少子高齢化、格差社会、コロナ禍など誰も経験したことのない課題に直面する社会の中で、若者の参画を促すよう、日本の教育を刷新することは喫緊の課題であることは間違いありません。