保育のICT化!「デジタル・ストーリーテリング」を行っている「つるみね保育園」をご紹介
教育のICT化とは?
ICT(Information & Communication Technology)とは、通信技術を使って人とインターネット、人と人がつながる技術のことで、具体的にはメールやチャット、SNS、ネット検索、ネット販売などのことです。
2019年6月に「学校教育の情報化の推進に関する法律」が施行され、保育園・幼稚園・認定こども園でも、ICTが広がりつつあります。
近年、日本の保育現場でのICT化は、待機児童対策や多様な保育サービスの対応などへの活用に向け、促進が期待されています。政府も補助金を投入していますが、保育現場では未だ活用事例が少ないのが現状です。
国や地方自治体も、様々な制度の整備、連絡帳や児童表の作成などの園内業務を中心に ICT 化を推進していますが、実践現場では ICT の導入にむけて戸惑いの声も根強くあるといいます。
特に、子どもに対する保育や保護者支援における ICT の活用については『保育所保育指針』(厚生労働省 2017)で、自然との直接的なふれあいや関わりが重要視されていることも一因です。
教育現場でのICT化、実践例をご紹介!
新型コロナ蔓延のため、休園中の保育園・幼稚園が多い中、「もう少し早くからICTを導入しておけばよかった」という反省の声も多くあるようです。
中国などの事例を見ると、日本の遅れに歯がゆい思いがするのは筆者だけでしょうか?中国のオンライン教育については、別記事で詳しくお伝えするので、それに譲ることにしましょう。
この記事でご紹介する「認定こども園 つるみね保育園」は、数年前からICTを保育に取り入れてきました。いったい、どんな保育園なのでしょう?
「認定こども園 つるみね保育園」のご紹介
読者の皆さんはきっと都会にあって、PCをたくさん設置しているようなモダンな保育園を想像しているでしょう。
実は、「認定こども園 つるみね保育園」は鹿児島県、鹿屋市の過疎地にある保育園です。
つるみね保育園のデジタル保育は1台しかないiPad を月に3~5回、わずか15分だけの活用というスタイルで定着し、好奇心探究心を育んでいます。
あえて一台のiPadを順番に使うことで「自律の心」を育む機会にしています。 用意されるカリキュラムは実に多彩です。
その一例をご紹介しましょう。激変が予想される未来を、たくましく生き抜くための日々の保育を計画的にバランスよく実践していて、脱帽です。
つるみね保育園での100を超える科学遊びは、すでに、500回を超えました。
空気砲、ソーラー、ホース電話、シャボン玉、風船通話、アイスキャンデー、ロケット、水鉄砲、浮沈子、振り子、静電気、ストロー笛など、火を使わない・化学薬品を使わない・電源を使わない・お金をかけない科学遊びを通して、科学的未来力を育てることに、チャレンジしています。
音楽遊びでは、木漏れ日の中で、ギターに合わせて、リズムにのって、毎朝、全職員でのアナログ演奏で、歌を楽しんでいます。(楽しそうですね!!)
そして、テレビ電話を活用した「グローバルタイム」や「イングリッシュタイム」では、外国の人とコミュニケーションを楽しんでいます。
「元気タイム」では、各地の郷土料理の食材などをデジタルで紹介したりしていて、食育にとりくんでいます。
そして、きわめつけは「プレゼンタイム」(後述)です。
家庭での手伝いや旅行などの写真を園児が元気よく説明したり、質疑応答や感想発表まであります。
このような多彩で斬新な保育園活動が年間で200以上ほどあり、「認定こども園 つるみね保育園」は、最先端の企業と連携し、保育業務の効率化、保育を可視化し質を高めていることに加え、保育士と保護者のコミュニケーションを活性化しています。
次に、「プレゼンタイム」という取り組みをご紹介します。
保育園児のプレゼンタイムって?
つるみね保育園で行われているプレゼンタイムは、保護者から届いたデジタル画像をもとに、子どもがエピソードを語ったり、聴き手となった子どもたちとのやりとりを楽しむ活動で、デジタル・ストーリーテリングと呼ばれます。
1台のiPadから始まる未来創造カリキュラム、デジタルを活用した保育の実践として、教育関係者や養育者の熱い視線を集めています。
①画像の準備
保護者が子どもと共に、家庭でストーリーの題材となる画像を用意します。
そして、あらかじめ、保護者が撮影したデジタルカメラの画像や動画が、家庭から園に送られます。
このようなやりとりは、もともと連絡帳での延長線上にあったものです。
保護者からデジタルな情報として送られてきて、担任の保育士だけが閲覧していたものでした。
②クラスにおける発表
園では、プロジェクタで画像や動画を上映し、その横で語り手となった子どもがエピソードを話したり、園にいる他の子どもたちからの質問に応じます。
いまでは、プレゼンタイムの教材として、クラス活動にも活用されるようになりました。
保護者からは、「親子で一緒にエピソードを語り合ったり、振り返る機会が増えた」、「家族の前で、子どもが練習をする姿が見られるようになった」などというポジティブな感想が寄せられています。
つるみね保育園では、NPO法人イーランチと、株式会社カスペルスキーと協力して保護者向けセミナーを開催しました。
テーマは「スマホと子育て」です。働くお母さんたちは、仕事と子育てに忙しい日常の中で、ついスマホやタブレットに頼ってしまうこともあり、大変好評でした。
子どもが小さい内からのスマホ利用には、抵抗があったというママも、セミナー受講後には家庭でルールを決め、けじめをつけて、セキュリティ対策をした上で活用をすれば良い、と感じて安心したとの感想を寄せていました。
さいごに
つるみね保育園は「9割のアナログ保育と1割のデジタル保育」をモットーに、先進的で独創的な取り組みを続け、学習デジタル教材コンクール文部科学大臣賞をはじめ、数々の受賞に輝きました。
登園した子どもたちは嬉々として保育園生活を楽しんでいますが、一方で、高齢化、少子化、過疎化も深刻で、「利便性のよくないこの地域だからこそ、子どもたちの未来創造のためにデジタル活用を進めることも急務と感じた」と園長の杉本正和氏は語っています。
つるみね保育園は新しい保育の創造にチャレンジ中の過疎地の小さな保育園です。豊かな自然環境を生かし、体験的・伝統的な保育を実践しながら、最新のデジタル技術を活用した先進的な保育に挑戦することで、子どもたちの好奇心探求心を高め、興味関心意欲・表現力・創造力などの非認知能力を大きく伸ばしています。
杉本園長は小学校教諭として17年、保育園園長として19年の経験を経て、幼児期の保育や教育の目指すべき方向を示しています。
つるみね保育園から生まれたアナログ保育とデジタル保育をバランスよく融合した「ハイブリッド保育」の実践が、未来をたくましく生き抜く、「未来力」を育てる就学前カリキュラムとして進化し、深化することは間違いないでしょう。