デンマークの幼児教育。童話作家アンデルセンを育てたデンマークの教育観

ライター　村田美子

2024/01/26 12:01

皆さんは学びって何？と問われたら、どう答えますか？デンマークでは「学びは生きる道を見つけること」という価値観が浸透しています。親はついつい先を先をと、子どもの道を用意しがちですが、ちょっと立ち止まってみましょう。この記事では豊かな教育と福祉で知られる北欧の国、デンマークの教育から私たちが得ることをお伝えしましょう。人生のある時期に立ち止まって、これからの人生を考えることができる「フォルケオプリュスニング（Folke oplysning）市民教育」の伝統や、就学前教育にも言及します。

デンマークの教育に流れる価値観とは？
デンマークには「森のようちえん」がたくさんある
フォルケホイスコーレ（民衆の大学）って？
さいごに

デンマークの教育に流れる価値観とは？

デンマークでは昨今のグローバル競争の状況下でも、子どもたちのWell-being（幸福）を重視した競争とは無縁の教育が根付いています。

教育を選択する自由が保障され、ホームスクーリングも認められています。これは、同じ北欧のスウェーデンとは違っています。

デンマークの学校には公立学校、私立学校、親が集まって設立した学校などがあります。小学校には通知表がなく、評価すること自体が法律で禁止されています。

デンマークには「森のようちえん」がたくさんある

のようちえんとは、子どもたちが森の中で自然との関わりを通して、さまざまなことを体感し、感性を磨いていくという試みです。

デンマークには、毎日森に出かけ、自ら遊びを自由に創造して体験する「森のようちえん」がたくさんあります。

今では、北欧諸国をはじめ、ドイツなどでも盛んに行われていますが、その発祥の地は、デンマークのロラン島です。ロラン島はサスティナブルアイランド（持続可能な島）とも言われる、人口約7万人の小さな島です。

ほとんどの森のようちえんは公立で、小学校に入る前の子どもたちが森の中で自由にクリエイティビティを育んでいます。このように、いろいろな体験学習を通して子どもたちの自主、自立の感覚が磨かれていきます。

自然の中では、いつ、何が起こるかわかりませんよね。それぞれが自分にできることをやるというのが、当たり前に行われているのです。そのため、森の中では、先生・大人も子どもも同じ目線で会話しています。究極の自己責任感覚を幼児時期から鍛えているのですね。

自然での体験を通して、課題を落ち着いて解決する力を身につけた子どもたちは、自ら考え、工夫する力を得ています。

森のようちえんを視察した人は「子どもたちは、のびのびしており、子どもも大人もお互いを信頼し、心地よいコミュニティが形成されていた」と感想を述べていました。

フォルケホイスコーレ（民衆の大学）って？

デンマークでは立ち止まって人生を考えるための機会が保障されています。義務教育の後期に寮生活をしながら学ぶことができる「エフタースコーレ」や、生涯に渡って開かれている「フォルケホイスコーレ」は、デンマークでは履歴書にも書くことができる学校です。

学生にとっては知識やスキルの習得はもちろん、人とのつながりの中で、ゆとりをもって自分を見つめる時間を得ることができる場所になっています。

フォルケホイスコーレは、「デンマークの教育の父」と呼ばれ哲学者でもあるグルントヴィが100年前に生み出した北欧独自の成人教育機関です。

もともとフォルケホイスコーレは、グルントヴィが「すべての人に教育を」という理念のもとで、主に学校に通えない農民などを対象に創設しました。

もう一人の創始者と言われるクリステン・コルが、フォルケホイスコーレを今の民主主義的教育法に変えたと言われています。

フォルケホイスコーレの特徴は、民主主義的思考を育てること、知の欲求を満たすこと、そして試験や評価が一切ないことです。

学べる分野はアート、スポーツ、哲学、福祉など様々ですが、今でも創始者の目指した知を得る場所であることや、民主主義を育てる場所であることは、どの学校も一貫して守られています。

学生は国籍に関係なくデンマーク政府からの助成金を受けることができ、学費の一部を払うだけで入学できます。現在デンマーク国内に70前後あるフォルケホイスコーレは、17歳以上であれば誰でも入学することができ、大学に進む前に本当に興味のあることが何なのかを探したい人や、新しいことにチャレンジしたい人、転職希望者などがフォルケホイスコーレに入学し、自分が学びたい教科を自由に選択して納得できるまで学びます。好きを仕事にできることは、本当に幸せなことだと思います。

入学試験はなく、科目ごとの試験もなく、成績（評価）もありません。学べる教科は、文学、歴史、心理学、環境、IT、コミュニケーション、教育、音楽、演劇、スポーツ、アウトドア、ダンス、絵画、写真、環境学、哲学、政治学、国際文化など多岐に渡っています。

フォルケホイスコーレでは、ディスカッション形式の授業を通して、民主主義的な問題解決の方法を自然に学びます。朝礼やリビンググループと呼ばれる生徒同士の集まりや、プロジェクトワークにいたるまで、常に他者との対話をとても大切にします。

フォルケホイスコーレは、全寮制の学校で、生徒だけでなく、先生も同じ学校の中に暮らし、年齢や国籍が異なる仲間として同じ時間を過ごします。

学校生活を通じて「自分が何者であるのか」を知り、社会は多様な他者との関係で成り立っていることを体感していきます。

そして、卒業後、自分が社会とどのように関わって生きるのか、生きたいか、自分は社会の構成員の1人として何ができるのかを考えるようになっていくのです。

期間は3ヶ月〜1年程度と幅があり、複数のフォルケホイスコーレを受講することもできます。試験もなく、資格も問われず、誰でも自由に学ぶことができます。寮費以外は無料です。

日本に住む私たちは学びというと就職に有利であるとか、コスパばかりに目が行きがちですが、デンマークでは「学び」とは「QOL（Quality of Life（生きること、生活の質）」に関わる営みなのです。筆者はこの記事を書きながら、人生のある時点でこのような学校に行きたい！と強く思いました。

デンマークは税率が25％と高いのですが、大学教育まで無償で、国民は預金せずとも安心して暮らしていけるそうです。

さいごに

デンマークでは子どもに教育を受けさせることは親の義務ですが、必ずしも学校に通わせる必要はなく、親は自宅学習等を選択することもできます。

2009年から幼稚園クラス（学校教育予備課程）が義務化され、０学年に指定され、義務教育期間は９年から10年に延びました。

就学前教育を受ける義務はありませんが、1歳以上の乳幼児の90％近くが平日保育施設に通っていて、保育所や保育ママが対象とする年齢は6ヶ月～3歳で、幼稚園の場合は、通常3歳～6歳です。

デンマークは童話作家アンデルセンや、哲学者キエルケゴールを生んだ国ですね。なんとデンマークは食料自給率が300％だそうです。

自分と社会の関わり方を学ぶ生涯教育のあり方には、私たちが参考にできる点も多かったですね。この記事を読むことで、今の自分を振り返るチャンスになれば幸いです。数年前、南インドの海岸で出会った3人の乳児を育てるデンマーク人のお母さん（3人とも養子）が、なぜ一夏をインドで過ごす体験を子どもたちとしたかったのかが解かった気がします。

この記事の著者

【ライター・コラムニスト】神戸市外国語大学を卒業後、京都府立高校で英語教師として勤務。その後、40歳で米国ジュニアタ大学に留学し、平和学を専攻。続いてオハイオ州立大学　教育学部　修士取得、博士課程、単位取得。帰国後、関西外国語大学にて教授。時事、カルチャー、政治経済、幼児教育～社会人教育まで多岐にわたる分野で記事執筆。20年間インドのアウトカーストの子どもたちの教育支援を行っている。 2018年、インド支援の一環として出版社、Murata Publisherを立ち上げる。著書に東洋経済新報社より「クリティカルシンキング　基礎編」「クリティカルシンキング　実践編」「誰も知らなかったインド人の秘密」、Murata Publisherより電子本39冊出版。

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