スウェーデンの教育をご紹介！なんと1歳からの就学前学校（プリスクール、förskola）が無償

ライター　村田美子

2024/01/17 10:01

税金が高いことでも知られるスウェーデンでは、幼児教育をとても重要視しています。それは「人は１歳から生涯にわたって学ぶ」という考え方が根本にあるからです。この記事では教育先進国といわれる北欧の国、スウェーデンの幼児教育に焦点を当てましょう。世界一やさしい子育て環境といわれるスウェーデンではどんな就学前教育が行われているのでしょうか？小学校から大学まで全て授業料は無料、義務教育の給食費も無料のスウェーデンに注目！！

スウェーデンの就学前教育の歴史と特徴
スウェーデンの教育制度
基礎学校だけではなく大学までの学費が無料
スウェーデンの女性の労働率の高さについて
さいごに

スウェーデンの就学前教育の歴史と特徴

まず、就学前教育の歴史からみてみましょう。スウェーデンでは1975年に幼保一元化を図りました。

そして、1985 年には親の就労の有無にかかわらず、子どもの権利として、就学前の保育を保障すべきであるとの法案を可決し、待機児童問題を克服しました。

1996 年には保育事業を社会福祉省から教育省に移管し、főrskola と呼ばれる就学前学校として子どもの育つ権利、教育を受ける権利を保障したのです。

学校なのでスウェーデンの学習指導要領に従いますが、大まかな指針だけで、教育内容や保育内容は自治体に任されています。

その結果、2017年現在で、利用率が1 歳児 48.4%、2 歳児 89.2％、3 歳児 92.7％、4 歳児 94.3％、5 歳児 94.5％になっています。

6 歳児は 1 年間、基礎学校（小学校）の中にある就学前クラスに通い、2018 年から義務教育になりました。子どもたちの多くは、就学前クラスの教育時間の前後に基礎学校内にある学童保育を利用しています。

気になる保育料ですが、1 日 3 時間（年間 525 時間）は無償で、残りの保育時間の料金は親の収入に応じて変わってきますが、実際には児童手当でほぼ賄える程度になっています。

子ども達の成長はファイルによって記録され、ファイルには一人ひとりの成長の記録、日々の子どもの言葉、園で作った作品などの写真などがポートフォリオになっています。

スウェーデンの保育は、生育環境の平等化をめざし、民主主義の理念や養護と教育を一体的に行うエデュケア(educare)の理念に基づくこと、遊びを通して子どもの全人的な発達や学びを促すこと、また、異年齢によるクラス編成や複数の職員によるチーム保育、対話教育法、テーマ活動、家庭との協力、ノーマライゼーションなど、特色のある保育を展開しています。

加えて、スウェーデンには森や水辺など豊かな自然環境があるので、子どもたちが雨や風、雪などの天候に関わりなく、戸外で存分に遊ぶ時間を保障する保育にも定評があります。

2018 年の就学前指針の改定では、就学前学校の任務を「ホリスティックな視点」、「遊びは発達、学び、ウェルビーイング（幸福）の基礎」、「コミュニケーションと創造」、「持続可能な開発と健康、ウェルビーイング」の4点であるとしています。

もう少しわかりやすくご説明しましょう。

・子どもを全人的にとらえること。

・発達と学びとウェルビーイングの基盤として、遊びが重要であること。

・子どもの言語発達を促し、スウェーデン語以外の母語の子どもに配慮すること。

・子どもたちに探究や創造の機会を提供すること。

・様々な自然環境にふれることで健康とウェルビーイング、体を動かす喜びや運動能力、

更には持続可能な開発についての学びが促されること。

・子どもに安全なケアと遊びを提供し、安心感と自己肯定感を育むとともに、子ども一人ひとりの全面的な発達と学びを促進すること。

まさに、日本に住む私たちが理想とする就学前教育環境を整えようとするスウェーデンの教育省の姿勢がうかがえます。

スウェーデンの教育制度

このように、スウェーデンの教育制度は、しっかりした理念の下で6歳のプレスクールクラスから始まり、基礎学校9年、高校3年、大学3年で、義務教育は、プレスクールクラス、基礎学校の10年間です。

スウェーデンには高校入試や大学入試はありません。また、スウェーデンの学校は、休みが日本と比べ一カ月ぐらい多いのも特徴です。夏休みが、6月上旬～8月中旬、秋休みが1週間、冬休みが3週間、さらにスポーツ休みが2月に1週間、イースター休みが4月上旬の1週間あります。学校は2学期制で8月に学校が始まります。尚、ホームスクーリングは原則として認められていません。

基礎学校だけではなく大学までの学費が無料

スウェーデンでは基礎学校前のプレスクールクラスの1年間、基礎学校の9年間、高校の3年間、そして大学も入学金や学費が無料です。

基礎学校在学中は学費のほか、給食費、教科書代や学用品代も基本的に無料です。そのためスウェーデンでは子どもの教育費を親が心配することはほとんどないと言えます。

スウェーデンの学校は大学の授業料が無償だといいましたが、奨学金制度など学生を支援する制度も充実しています。高校卒業後に数年間働いた後、大学で学ぶ学生も少なくないようです。

スウェーデンの女性の労働率の高さについて

スウェーデンの女性の労働力率は日本よりも高いのが特徴です。その理由として、出産しても育児休業を取ることで、雇用を継続して離職をしない女性がほとんどなのです。

スウェーデンでは育児休業制度がうまく機能していて、日本と比較をすると、「多く生んで、多く休業する」という状況にあり、仕事と育児との両立や、育児休業後の復職が円滑に行われているものと考えられます。

参考：内閣府　

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w2005/17webhonpen/html/h1420210.html

さいごに

スウェーデンの税率は平均30％で大変高いことで知られています。そのため、地方の財政はかなり豊かと言えます。税金が社会保障に多く使われ、質の高い福祉・教育を提供していることから、世界幸福度ランキングの上位を占めています。

スウェーデンでは父母とも働いていることが一般的で、親が働き方を調整し、保育時間が長時間にならないようにしています。子どもが 8 歳までは労働時間を最大 25％まで短縮できるという制度があり、1 日 6 時間（週 30 時間）が一つの目安になっているようです。

朝早い子どもは朝７時ごろに登園し、就学前学校が用意する軽い朝食（無料）を食べ、

午後は３時頃から順次降園して、5 時にはほぼ全員が帰宅するのが一般的です。

子どもが 12 歳になるまでは、一人の子どもにつき最長で年間120日間の看護休暇の取得が可能であり、給与の 80％が支給されます。

1974 年に世界で初めて有給の育児休暇制度を導入したスウェーデンでは、子どもが 8歳までに1年10か月の育児休暇が取得でき、このうち 390 日間は給与の80％が支給され、残りの90日間は 1 日 180 クローナ（約2000円）が支給されます。父親の育児休暇は90 日間とることが可能で、90％以上の父親が取得しています。

スウェーデンの政策が優れている点は、管轄を教育省にして、保育園を学校化してプレスクールにした点です。これによって、保育士の社会的ステータスが押し上げられ、保育士の給与も2000～2500クローネ（25～32万円）と、一般的な職業の水準に引き上げられました。

こうして、ステータスが向上し、給与水準も上がったことにより、今やスウェーデンでは保育士不足は、解消しているといいます。日本のプレスクールである「認定こども園（幼保一体園）」は、厚労省と文科省の間をとったような総務省管轄なので、中途半端な気もしないではありません。

この記事の著者

【ライター・コラムニスト】神戸市外国語大学を卒業後、京都府立高校で英語教師として勤務。その後、40歳で米国ジュニアタ大学に留学し、平和学を専攻。続いてオハイオ州立大学　教育学部　修士取得、博士課程、単位取得。帰国後、関西外国語大学にて教授。時事、カルチャー、政治経済、幼児教育～社会人教育まで多岐にわたる分野で記事執筆。20年間インドのアウトカーストの子どもたちの教育支援を行っている。 2018年、インド支援の一環として出版社、Murata Publisherを立ち上げる。著書に東洋経済新報社より「クリティカルシンキング　基礎編」「クリティカルシンキング　実践編」「誰も知らなかったインド人の秘密」、Murata Publisherより電子本39冊出版。

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