ホームスクーリング事情、各国比較をしてみよう！

ライター　村田美子

2023/10/31 00:10

「公教育より親（自分）が教える方が、より良い教育を子どもに受けさせられる」と思いますか？アメリカなどではホームスクーリングが合法で、推し進められています。一方、日本では、子どもに義務教育を受けさせるのは親の義務である（子どもにとってではなく）という学校教育法にのっとって、違反した親には罰金刑が適用されます。とはいえ、現実には2000～3000人以上の日本の子どもが、家庭で教育をうけています。この記事では、アメリカやイギリス、ドイツ、フィンランド、ドイツなどのホームスクーリング事情をお伝えし、日本と比較してみましょう。

ホームスクーリングとは？
日本のホームスクール
ホームスクーリング事情、各国比較
さいごに

ホームスクーリングとは？

ホームスクーリングは、子どもが学校に行って勉強するのではなく、家庭で学習するスタイルのことを言い、オールタナティブ教育のひとつです。自宅ベース教育(home-based education)とも呼ばれます。

以前は、教科書を使って親が教師役を務める形態が多かったのですが、2000年以降はインターネットが普及したため、インターネットで配信される講座を受講したりしてします。

ホームスクーリングには、ラーニング・アット・ホーム（教科書などを使って親が教えたり、保護者の監督のもとで、インターネット講座を受ける）、アンブレラ・スクール（他のホームスクール生徒と一緒に講義を受ける）などがあります。まず、日本のホームスクーリング事情から見ていきましょう。

日本のホームスクール

日本でホームスクーリングをしている子どもは、いじめや不登校、健康上の問題などがあって、在宅学習をしているケースや、早期英才教育などで親がホームスクーリングを決めたケースなどがあります。

学校教育法の第17条・第18条では、「保護者は学齢児童・学齢生徒に対し、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由を除いて学校就学義務を規定」していて、やむを得ない事由がないにもかかわらず、学校就学義務を果たさない親が、督促を受けても履行しない場合、第144条により罰金の対象となります。

支援団体として、東京シューレは1993年から「ホームシューレ」を開始し、月刊誌の発行、月１回の交流会、合宿等、電話・手紙・インターネットによる日常的交流等の活動を行っています。

また、「ホームスクーリング・ネット姫路（ＨＳＮ姫路）」では、1993年から、学校に行かない子どもと、その家族が互いに援助し合っています。各家庭の独自性を尊重しながら、ゆるやかにつながるネットワークづくりをしています。専門家に頼るのではなく、周りの大人の智恵や力をリソースとして共有しています。

ホームスクーリング事情、各国比較

ホームスクーリングが認められている国は、アメリカ（全州）、オーストラリア、フランス、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、ベルギー、ロシア、カナダ、チェコ共和国、ハンガリー、オーストリア、ロシア、英国などです。

部分的に認められている国は、スウェーデン、スイスで、ホームスクーリングが認められていない国は、ドイツ、ギリシャ、オランダ、スペイン、トルコ、イタリア、日本などです。

アメリカのホームスクーリングの状況は？

ホームスクーリングは合法です。公教育に不信感を持ったジョン・ホルトによって1970年代にアメリカで展開されるようになり、1980年代半ばには、ホームスクールの親と教師・校長・教育委員会との協力がみられ、1993年までにアメリカの全州でホームスクールは合法になりました。

公認されたホームスクールは、私立学校と同じ地位が認められる場合、学校教育（就学義務）の例外として特例的に認める場合、特別の法的措置が講じられる場合の3タイプがあります。

ホームスクールを行う際の条件として、親の適格性、学校に準じたカリキュラム、教科書・教材の使用、学習・行動記録の提出、学力テストの受験等があります。

参考：社会関係研究第６巻第１・２号

アメリカの支援団体には「ホルト協会（Holt Association）」があり、1977年から機関誌『Growing Without Schooling』を発行しています。

また、1983年設立の「ホームスクール法的擁護協会（Home School Legal Defense

Association;HSLDA）」は、市民運動、法的問題、調査研究、教材販売等に力点をおき、機関誌『Teaching Home』を発行しています。

ホームスクーリングをしている家庭の70％ちかくが、何らかのホームスクール支援団体に所属していて、200万人以上の子どもが自宅で学んでいます。背景には、銃乱射事件の頻発や、宗教的な理由があるようです。

カナダのホームスクーリングの状況は？

カナダも全州においてホームスクーリングは合法で、全国的なホームスクーリングのイベント、The Canadian Online Homeschool Conferenceと National Home Education Conferenceが有名です。

イギリスのホームスクーリングの状況は？

イギリスでは、ホームスクーリングは「ホームエデュケーション」と呼ばれ、法的にも義務教育として認められ、60000人が行っています。（2010年）

教育水準局が、ホームスクーリングを実施している家庭を訪問して教育内容が適切であるかを確認します。

フィンランドのホームスクーリングの状況は？

フィンランドでは、義務教育はありますが、通学義務はありません。そのため、親が自治体にホームスクーリングを行なうと通知するだけで、自宅で義務教育を行うことができます。

フィンランドのホームスクーリングの場合、自治体には給食、教科書、教材、児童の保健、カウンセリングなどのサービスを提供する義務はなくなりますが、別に自治体がそれを提供しても良いとされています。

しかし、自治体には義務教育の進展を監視する義務があり、年に1~2回、監視員がその家庭を訪問して、教育の進展をチェックします。毎年全国で200人程度がホームスクーリングで義務教育を始め、数的には少ないのが現状です。通学して学校で集団生活することの大切さを挙げている教育者が大半です。

オーストリアのホームスクーリングの状況は？

オーストリアではホームスクーリングは合法です。従来と異なるカリキュラムで運営されている学校に通う生徒は、公的な試験を定期的に受けなければいけません。

カナダのホームスクーリングの状況は？

カナダでもホームスクーリングは合法です。ホームスクールを選ぶ親たちのために、多くの情報が提供されていて、完全な学習カリキュラムもあります。コンサルティングサービスもあるようです。

チェコのホームスクーリングの状況は？

チェコでもホームスクーリングは合法で、6歳から11歳の子どもは2005年から、12歳から15歳の子どもは2016年の9月からホームスクーリングができるようになりました。

1年に２回地元の学校で試験を受けなくてはならず、これまでに８千人を超える子どもがホームスクーリングを経験しました。

フランスのホームスクーリングの状況は？

フランスでもホームスクーリングは合法で、政府は従来の学校教育を推奨してはいますが、親はホームスクーリングを選択することが可能です。その場合は、フランスの教育省が定めたカリキュラムに沿って、子どもの学習進捗状況がモニターされます。

ハンガリーのホームスクーリングの状況は？

ハンガリーでは2012年に教育基本法の改正が行われ、ホームスクーリングが合法になり、16歳以下でもホームスクーリングを選ぶことができます。プライベート　スチューデントと呼ばれる子どもたちは地域の学校に入学し、その学校の学年試験をパスしなくてはなりませんが、学校に通う必要はないのです。

ロシアのホームスクーリングの状況は？

ロシアではホームスクーリングは合法ですが、ホームスクールの子どもは、通常の学校に通う子どもたちと同じ試験にパスしなければなりません。

シンガポールのホームスクーリングの状況は？

シンガポールの義務教育基本法でホームスクーリングは義務教育の適用除外例の一つとして許可され、2000年から合法になりました。

スウェーデンのホームスクーリングの状況は？

スウェーデンでは、義務教育と通学義務（例外を除く）の両方がありますので、義務教育は学校で受けなければなりません。通学できない余程の重大理由がなければホームスクールは許されません。

スイスのホームスクーリングの状況は？

スイスでは一部の州ではホームスクーリングが合法ですが、国としては認められていません。スイスホームスクール協会という団体があります。

インドネシアのホームスクーリングの状況は？

法律では、7歳から15歳のこどもは通学する義務があります。しかし、初等教育に満足していない親も多く、学習グループを作っています。

イタリアのホームスクーリングの状況は？

イタリアではホームスクーリングは違法で、政府はホームスクーリングによって、教育の不均が広がることを懸念しています。

ドイツのホームスクーリングの状況は？

ドイツ全州で就学義務が定められていて、ホームスクーリングは就学義務違反になります。通信制の学校も認められていません。違反した場合、所轄官庁や警察が強制的に学校に子どもを連行することができます。親には罰金や6ヶ月以下の自由刑が科せられます。

さいごに

日本では約7万2千人の小中学生が年間、計90日以上欠席している（2015年）現実があります。ホームスクーリングが、手立ての一つになることは確かです。

ホームスクール先進国のアメリカでは、ホームスクーリングの草の根ネットワーク活動が活発です。ホームスクーラー用の参考書や教科書、ウエブも充実しています。また、多くの大学がホームスクーリング出身者の入学を受け入れています。

読者の皆さんは、この記事を読んで、国によってホームスクーリングが禁じられていたり、推し進められている現状に関して、どのような感想を持たれたでしょうか？

この記事の著者

【ライター・コラムニスト】神戸市外国語大学を卒業後、京都府立高校で英語教師として勤務。その後、40歳で米国ジュニアタ大学に留学し、平和学を専攻。続いてオハイオ州立大学　教育学部　修士取得、博士課程、単位取得。帰国後、関西外国語大学にて教授。時事、カルチャー、政治経済、幼児教育～社会人教育まで多岐にわたる分野で記事執筆。20年間インドのアウトカーストの子どもたちの教育支援を行っている。 2018年、インド支援の一環として出版社、Murata Publisherを立ち上げる。著書に東洋経済新報社より「クリティカルシンキング　基礎編」「クリティカルシンキング　実践編」「誰も知らなかったインド人の秘密」、Murata Publisherより電子本39冊出版。

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