語彙力とは、どれだけ多くの種類の単語を知っているか、どれだけ豊富な単語を把握しているかという学力基盤の指標です。すなわち、自分の気持ちを的確に言葉で表現したり、自分が置かれている状況を他者にわかりやすく説明するときに使われる単語の力をいいます。

「語彙力」を日常で使われている分かりやすい言葉で表すと、”ボキャブラリー”という言葉になります。”ボキャブラリー”とは、言語における言葉を総体的に指し示す表現で、 言語体系や学術分野、個人の言語能力といった範囲に含まれている単語を指すとされています。つまり、個々の単語・言葉ではなく、単語や言葉の集まりを指すものです。

”ボキャブラリー”に似た言葉として”イディオム”というものがあります。しかしながら、概念としては、”イディオム”は”ボキャブラリー”に含まれます。”イディオム”は日本語に訳すなら”慣用句”です。例えば、”Once in a blue moon”という言葉がありますが、それは「ごく稀に起こる出来事」という意味で使われます。日本でも、「口を割る」「腹を割る」といった表現がありますね。

イディオム（慣用句）を習得することもボキャブラリーを増やす一つの手段です。

2016年に発表されたPISA（学習到達度調査）の結果では、日本の15歳の読解力が下がったことが指摘され、国立教育政策研究所では「読解力向上に向けて、それを支える語彙力を強化していくこと」を目標に掲げました。

また、国立情報学研究所の新井紀子教授は、東ロボの開発者ですが、全国2万5000人の中高生を対象に実施した「基礎的読解力調査」で、簡単な文章の主語を読み違えたり、「てにをは」などの助詞を正しく理解できていなかった生徒が多く、読解力の低下を指摘しました。要因は、家庭内で大人同士の会話が少なく、活字離れなど環境の変化や、子ども自身が「言葉に興味をもつ」きっかけが不足していることをあげています。

参考：文部科学省　国立教育政策研究所｜OECD 生徒の学習到達度調査～2015年調査国際結果の要約～

玉川大学大学院の佐藤久美子教授が、小学校入学直前の6歳児200人を対象に語彙力調査を実施した結果、低年齢期から子どもたちの語彙力レベルに大きな差が生じていることがわかり、子どもたちの間に「語彙力格差」が広がっていると指摘します。語彙力アップの鍵は何なのでしょうか？

子どもたちの間で語彙力の格差がある背景を、発達心理学・認知心理学、幼児教育学が専門のお茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科、 内田伸子教授が、幼児と保護者、幼児を担当する保育者を対象にして調査しました。（3歳児773名、4歳児914名、5歳児 920名、合計2,607名を個別に臨床面接、親にはアンケート調査）

その結果、経済格差が子どもの語彙に関連するというのは見かけの相関であり、語彙力に関連しているのは親の子どもへの関わり方（しつけの仕方・読書・蔵書数など）であることが判明しました。低収入層であっても、共有型しつけスタイル（ふれあいを重視し、子どもとの体験を享受・共有する）をとれば、語彙能力は低下しないという調査結果が出たのです。

AI時代を背景に、小学校でも親の世代の時よりも文章をまとめて発表する機会が増え、小学3年生あたりからグループでの発表などが増えています。豊かな語彙力は、これから生きていく子どもたちには欠かせない基礎学力であることは間違いありません。内田伸子教授の「たとえ低収入家庭の子どもであっても、親がふれあいを重視し、子どもとの体験を共有する姿勢で子育てに臨めば、語彙力はどんどん伸びていく」という研究結果は注目に値します。子どもと対等な関係で、親子のふれあいや 家族の団欒を大切にし、楽しい経験を享受・共有しようとするしつけスタイルをとる家庭では、子どもの語彙が豊かになるのです。語彙力は自然に身につくものではなく、努力して手に入れるべきものなのですね。この記事が子育ての参考になれば大変うれしく思います。