マルトリートメント（maltreatment）は、treatment（ 扱い）に mal（ 悪い）という接頭語がついた専門用語で、日本語では「 不適切な養育」と訳されています。この考え方は1960年代のアメリカでコロラド大学、小児科教授ヘンリー・ケンプ（1922~1984）が広め、彼は「虐待」という概念を医学的な観点から研究しました。そして、1980年代には児童虐待をより生態学的な観点からも捉えるようになりました。

大人の側に加害の意図 があってもなくても、 また、子どもに目立った傷や精神疾患が見られなくても、行為 そのものが不適切で あれば、「マルトリートメント」です。ここ50年の研究の中で、たとえ悪気はなくてもネガティブな言葉を何度も子どもに浴びせると、子どもの心や身体が健全に成長しないこと、子どものしつけのため、子どものためを思って言っていることが、子どもにトラウマを植え付け、その後の発達に悪影響を及ぼしていること、さらに親からのマルトリートメントによって、物理的に子どもの脳が変形するということが明らかになったのです。

最初の頃は、傷ついた子どもの心は治癒できるという考え方が主流でしたが、脳の画像診断法を元に研究が進められた結果、発達途上にある子どもの脳の機能や神経構造にマルトリートメントが永続的なダメージを与えることが明らかになりました。

と、日本の脳科学者であり小児神経科医である友田明美氏は断言しています。彼女はハーバード大学と共同で児童虐待が脳を萎縮させる研究をしてこられた有名な方ですね。

それではネガティブな言葉とは具体的にはどのような言葉なのでしょうか？それは「禁止」や「否定的な表現」として発せられる以下のような言葉です。

子どもを動かすために、「パトカーを呼ぶよ！」「鬼が出るよ」などと脅すようなことをいう。

感情をコントロールせず、自分の怒りやイラつきをそのまま子どもにぶつける。

言葉とは違いますが、「声をかけずにいきなりオムツを替えたりする。」といった行動も良いとされておりません。

「あんたはどうせ・・・・だよね」「出ていきなさい！」などと、いつもガミガミ叱ってばかりいる。

「あんたはいつも・・・・なんだから」とネガティブに決めつける。

うまくできなかった子どもに「赤ちゃん！！？」などと、からかったりする。

「バカ！」など、とげとげしい言葉を浴びせる。

子どもの脳を健全に育てるためには親の落ち着いた、優しい言葉がけがいかに大切か、解りましたね。では、どうすればマルトリートメントを止めることができるでしょうか？

こちらがイライラした時の対処方法、「タイムアウト」というアンガーマネジメント（怒りを鎮める方法）をお伝えしましょう。

怒りの言葉を即、発するのではなく、「タイムアウト」といって、外を散歩したり、別の部屋に行きます。5分くらいしたら戻ってきて、冷静に子どもに話しかけます。これは、夫婦間でも使えますよ。良い関係にある時から練習しておくのも一案です。

親の言動は親が思う以上に子どもの脳に影響を与えることを脳科学研究の成果からご紹介しました。参考にしてくださいね。